電球が切れたなら

2/11
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 顔を上げて鏡を見ながら寝癖直し用のムースをつけて櫛で梳かす。それだけで綺麗に整うからショートボブは楽だ。  鏡の前で全力の笑顔を作ってみる。 「まだ大丈夫」  目の前の三十五歳の私を見て言う。作り笑顔が少し痛々しくなってきている気もする。加えて、目尻のしわが少しずつ増えてきて、肌質は明らかに落ちてきている。お金をかけてケアをしているけれど、衰えはどうやっても止めることができない。ただ、うすぼんやりした洗面所で見る私の童顔は二十台に見えなくもない。まだ夜の街ではナンパされることもあるし、女でいることができていると思う。  二十代の頃は顔の幼さゆえにお酒を買うときや夜遅くまで遊んでいる時に免許証を見せなければいけないことを面倒だと感じていたけれど、今となっては幼く見えるこの顔にありがたみを感じる。  あとは、お気に入りのピアスをつけたいところだけれど、数日前から見当たらない。イエローゴールドの三日月をモチーフにしたピアスは小さく、どこかに置いたままなのか、それともどこかに落としてなくしてしまったのかさえもわからない。もう一度書い直そうと思ってショップに行ってみたけれど、もう販売終了したとのことで手に入らなかった。気に入っていたからとても残念だ。     
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!