電球が切れたなら

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 そういえば、カフェで働いているのも夢を叶えるためだった。焼きたての美味しいパンを提供するカフェを開業したいと思っていて、お金を稼ぐためとカフェのノウハウを得るつもりで働いていたけれど、日々の生活に満足してしまっていて、開業の夢はすっかり忘れてしまっていた。 「パン屋さんを開業したら一番最初のお客さんとして行くよ」 「ありがとう」  三十五歳にもなって結婚もできず夢も中途半端な自分を少しだけ変える勇気をもらえた気がした。 「電球入れ終わったよ」  彼は切れた電球を私に手渡した。  照明のスイッチを入れると世界が変わったように明るくなった。 「ありがとう。良かったらご飯食べていかない? 作りすぎちゃって」  作りすぎてはいない。最初からハンバーグとポテトサラダを二人分作っていた。傷つきたくなくて言い訳がましくなってしまう自分が情けない。 「じゃぁ、お言葉に甘えて」 「温めるから座ってテレビでも見て待ってて」  彼は言われた通り、リビングの椅子に座りテレビを見る。私はキッチンでフライパンにもう一度火を入れ温め直してからお皿に盛り付ける。リビングテーブルに並べると向かい合わせに座った。 「いただきます」  そう言って、手を合わせると彼は勢いよく食べ始めた。 「美味しい」  満面の笑みで言った彼はとても可愛い。     
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