第1章 開戦

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もはや両軍の視界を遮るものはなくなった。 獅子島能成は声も高く命じる。 「兵を進めよ! 城攻めを始める!!」 「応!!」 獅子島の兵はよく鍛えられている。気合いを(みなぎ)らせつつも、突出する者も遅れる者も出さず、まるで波が押し寄せるかのように城に近づいていく。一種の美しささえ感じられる光景だった。 「……流石だな」 宗一郎は舌打ち混じりに賞賛した。広い平野ならまだしも、狭い谷間(たにあい)、しかも田畑があり決して平らかではない土地だ。それなのにああも速やかに進めるとは。 「おおい、御館様ァ!」 三の郭の門を挟んだ向こう側に小柄な老人が立っていた。伊川家に古くから仕える猿吉(さるきち)という忍びだ。 「そろそろ頃合じゃ、下知を頼む!!」 「おう!」 宗一郎はうなずくや、声を張り上げた。 「弓衆、鉄砲衆、構えろ!」 飛び道具を持つ者達である。 猿吉もまた叫ぶ。 「もう少し引きつけなされ!! 堀の手前三百歩のところまでじゃ!」 敵は粛々と近づいてきている。 宗一郎は右手を高々と掲げた。 (――今!) 勢いよく振り下ろす。 「放てぇっ!」 弓弦が鳴り、鉄砲の轟音が響く。 あたりに硝煙の匂いが立ち込める。 ――いよいよ、戦が始まったのだ。
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