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もはや両軍の視界を遮るものはなくなった。
獅子島能成は声も高く命じる。
「兵を進めよ! 城攻めを始める!!」
「応!!」
獅子島の兵はよく鍛えられている。気合いを漲らせつつも、突出する者も遅れる者も出さず、まるで波が押し寄せるかのように城に近づいていく。一種の美しささえ感じられる光景だった。
「……流石だな」
宗一郎は舌打ち混じりに賞賛した。広い平野ならまだしも、狭い谷間、しかも田畑があり決して平らかではない土地だ。それなのにああも速やかに進めるとは。
「おおい、御館様ァ!」
三の郭の門を挟んだ向こう側に小柄な老人が立っていた。伊川家に古くから仕える猿吉という忍びだ。
「そろそろ頃合じゃ、下知を頼む!!」
「おう!」
宗一郎はうなずくや、声を張り上げた。
「弓衆、鉄砲衆、構えろ!」
飛び道具を持つ者達である。
猿吉もまた叫ぶ。
「もう少し引きつけなされ!! 堀の手前三百歩のところまでじゃ!」
敵は粛々と近づいてきている。
宗一郎は右手を高々と掲げた。
(――今!)
勢いよく振り下ろす。
「放てぇっ!」
弓弦が鳴り、鉄砲の轟音が響く。
あたりに硝煙の匂いが立ち込める。
――いよいよ、戦が始まったのだ。
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