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春の雨は出会いを呼ぶ?
「じゃあ、お願いします」
三谷優人はタクシーの運転手に声をかけ、後部座席のドアから離れた。
ドアがバタンと自動で閉じ、タクシーが動き始めたのを見て、優人は深く溜息を吐く。飲み会でぐでんぐでんに酔っぱらった上司と、やっと離れられたことからくる安堵の溜息だ。
人の世話を焼きたくなってしまう優人には嫌な役どころばかりが回ってくる。自覚はしているというのに、どうしても困っている人を放って置けないのだった。
桜の下で行われていた宴会が雨に降られ、急遽お開きになり今に至るのだが、優人の姿は酷いものだった。絡まれてヨレヨレになっていたスーツは、上司を運んだ所為でまともに傘も差せず、ずぶぬれとは言わないが雨に濡れ、余計にだらしのないものと化していた。
「三谷ー、部長帰った?」
「はい、タクシーに無事、」
「な、おまえ二次会来ない?」
金曜日の夜、――あと一時間で土曜日になってしまうほどの時間なのだが、まだ飲み足りないメンバーが酒の弱い優人を誘った。割り勘するには頭数が多い方がいいからだ。
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