春の雨は出会いを呼ぶ?

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「いや、俺はここで」 「あー? ノリ悪いな、三谷ぃ」 「はぁ、もう呑めませんから…、」  と優人が言い終わる前に、そこにいたメンバーたちは話題を変え、早々に優人を置いて二次会の会場へと向かって行った。どうせ行ったとしても、先輩の自慢話だけであることは予想が付く。上司がいなくなった今は先輩の独壇場だ。優人は内心あっさりと帰路に就けたことに安堵しつつ、先輩らの後姿を見送った。  優人はスーツに張り付いた桜の花弁を水滴と共に払って傘を差しなおし、街灯を反射させて煌めくアスファルトの上を歩き始めた。急に降ってきた雨に慌ただしくブルーシートなどを片づける団体を傍目にゆっくりと歩を進める。傘の端から覗く、堪能する間もなく散ってしまった桜を眺めながら。     その優人の目の前を傘もささずにふらりと青年が通り過ぎた。  少し幼さを含んだ華のある顔には、その空間にいる人すべてを小馬鹿にするかのような嘲笑がうっすらと浮かび、雨に濡れる姿と相まって、存在の不安定さを感じさせる。  優人は気づけばその青年の肩を掴んでいた。世話焼きの本能だったのだろうか。桜のように儚く散ってしまいそうな空気を纏っていたその青年を放って置けなかったのだ。  しかし、その青年の第一声は、そんな優人を突き放すようなものだった。 「アンタ、なに?」  冷めた視線と刺々しい声色が優人を刺す。  青年からすれば、優人は不審極まりない人物であり、当然と言えば当然なのだが、優人はそんなものにはへこたれないお節介精神を持ち合わせていた。
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