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「君、ずぶぬれじゃないか。傘は? 傘は持ってないの?」
「はぁ?」
「これ使うといい。俺の家すぐ傍だから心配しないで」
「マジ、なに?」
傘の柄を差し出す優人を何やら可哀想な目で見ていた青年は、何かを思いついたように目を細めた。
「なぁ、アンタの家連れて行ってよ。近いんだろ?」
「え?」
「俺、今日鍵失くしてさぁ、部屋に入れなくて困ってたんだよな」
その青年は全くと言うほど困った様子ではなかったのだが、優人の庇護欲をくすぐるには十分すぎる言い訳だった。
「狭いけど、一泊くらいなら問題ないと思うし、うちにおいで。うん、それが良い」
「ホント? じゃ、よろしくな、おにいさん?」
どこか艶やかに微笑む青年の美しさに優人はしばらく釘付けになっていたが、はた、と気付いて頭を振ると、青年を傘の中に招いた。
「チョロいな」
と呟いた青年の声は優人の耳には入らず、雨の音に消えた。
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