CHORNO-BOG

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 わたしは息を吐く。自らを落ち着かせるための行動だったのだが、あまり意味はなかったようだった。未だに心臓は早鐘を打っている。  わたしは再び、目を瞑った。いつものように、これでわたしは冷静に戻れる。  まぶたの裏に、未玖が浮かんできた。  彼女はわたしにとって、唯一心の許せる存在だった。常に行動を共にし、喜びは分かち合い、そして秘密を共有した。未玖。彼女は、わたしにとってなくてはならない存在だった。  わたしを理解できるのは、彼女だけだったのだ。わたしは彼女のことをなんでも知っていたし、彼女もわたしのことをなんでも知っていた。 「……」ふと、そこでわたしは小さなつっかかりを覚えた。  ……なんでも知っていた?  はっと目を開く。未玖はわたしのことを、何でも知っていた。わたしのこと、つまり、このマンションのセキュリティについても。  思考が加速する。わたしはエレベーターを停止させ、それにより未玖は非常階段を使う他に選択肢がなくなった。わたしは警官隊が到着するまでの時間稼ぎに成功し、未玖は追い詰められる。わたしが勝ち、未玖は負ける。  本当にそうだろうか?  もしもすべて、()()()()()()()だったとしたら?  動悸が治まらない。わたしの行動を思い出す。  エレベーターを停止させたのは、あれはある意味当然の流れの中で起こった出来事ではなかっただろうか。まずはじめに、未玖の電話により、わたしは異変に気がつく。停電、警報。わたしは当たり前のように監視カメラの映像をチェックし、未玖の姿を発見。そして、管理者権限を行使しエレベーターを止める。この結果は度重なる未玖の観測ありきで成立したものではないのか。  この流れは全て、未玖にだけは予想ができたのではないだろうか。  わたしは立ち上がった。違う、まだ何も終わっていない。警官隊が到着する前に、必ず未玖が何かをする。そしてわたしは再び窮地に追い詰められるのだ。  もうすぐに、第二波がくる。
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