CHORNO-BOG

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 まさか、そんなことがあり得るというのか?  わたしは思い出す。一階のエントランスホール、あの場所は確か水で濡れていた。なぜこの時間に、しかもあんな大量の水で濡れていたのか。  わたしはモニターを切り替えた。セキュリティの最深部にアクセスする。もしわたしの予想が正しければ、全てが繋がる。  わたしは一縷の望みをかけて、その画面を開いた。わたしは目を見張った。やはり、そういうことだったのか。  五十分ほど前に、一六階でスプリンクラーが作動した形跡がある。  わたしはさらに、一六階の監視カメラの映像を開く。映像の中、廊下ではやはり大きな水溜まりができていた。わたしの推理は当たっていた。  おそらく三五分前、つまりスプリンクラーが作動した時間帯に、このマンションで小さなボヤ騒ぎがあったのだ。その証拠に、スプリンクラーと同じ時間にマンション棟内で火災報知器も発動している。  そして、それにより住人は棟内から避難した。全員が全員、ここを脱出した。  その際に、スプリンクラーが作動した階の住人は、水たまりの上を歩かざるを得なかった。だから靴に水滴が付着し、びしょ濡れになった階段を他の階の住人達も歩く。  おそらく非常階段の扉の中にもスプリンクラーから放出された水が染み出ていたのだろう、住人の靴には多量の水分が含まれていた。そしてその足でエントランスホールを通過したため、あの場所はあんなにも濡れていたのだ。  これで全ては繋がった。つまり、わたしの推理が正しければ現在このマンションにはわたしと未玖以外誰もいない。未玖は何一つの妨げもなくわたしを追い詰め、殺すことができてしまう。  だがひとつ、気になることがある。  なぜわたしは、わたしだけがボヤ騒ぎに気がつかなかったのだろう。火災報知器が作動していれば、さすがに気がつかないというはずはないだろう。なのになぜ、わたしは……。いや……わたしは眉をひそめた。  違う、この部屋の火災報知器が発動したのはついさっきだ。さっきの爆破の時に、この部屋では火災報知器が作動した。つまり、ボヤ騒ぎの時には発動しなかったということになる。だがなぜだ? なぜ、この階の火災報知器だけが発動しなかった?  わたしの中に、ある考えが浮かんだ。
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