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未玖によれば、妨害電波は停電以前からこの周辺に存在していた。その理由はひとつしかないだろう。
一度目のボヤ騒ぎの時に、通信機器を封じて消防隊の到着を遅らせるためだ。もし消防隊員がこのマンション棟内に入ってきてしまえば、未玖にとって計画の妨げとなる。未玖はそれを恐れたのだろう。
わたしは受話器を持ち替えた。
「なら、どうしてこの電話は繋がっているの?」
未玖は勿体ぶるように少し間を置いて、囁くように答えた。
「内線ですよ」
「内線?」聞き返すような形にはなったが、決して意味が理解できなかったわけではない。
わたしはもう一度、声には出さず彼女の言葉を反芻した。
内線、その手があったか。
このマンションでは一階のフロントから各部屋に内線が繋がっている。その機能を利用すれば、通信が規制されている現在でもこの部屋へ連絡をつけることはできるはずだ。
では、未玖はフロントからここへ電話をかけているのだろうか?
違う……わたしは眉をひそめた。彼女が使っているのはフロントの内線ではないのではないか。六階が爆破された今、それより下の階に未玖が居るとは考えにくい。
わたしは目を瞑り、考える。
未玖が使用しているのはフロントの内線ではない。となると、一体彼女はどこの内線を使っているというのか。絡み合う思考が、やがてひとつの記憶と結びついた。
そうか、廊下だ。未玖は廊下の内線を使っているのだ。
内線は部屋同士を繋ぐこともできる。けれど、未玖はここ以外の部屋のカードキーを所持していない。つまり、未玖は部屋からもフロントからも内線を使用できない。となれば、選択肢はひとつしかないだろう。
一階のフロントの他に四階間隔で廊下に設置された内線だ。
わたしは誰にでもなく頷いた。内線はフロントと部屋だけではないのだ。その他に、六階、十一階、十六階、二一階に設置されている。
未玖が使っているのは、その中のどれかだ。
一筋の光、希望が見えてきたような気がする。これは、またとないチャンスなのではないか。未玖が今現在何階からわたしに電話をかけてきているのか、それを特定できるかもしれない。迎撃の機会を作り出せる。
わたしには、きっとそれができる。
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