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まず最初に、選択肢の中から六階は除外することが可能だ。
理由は言うまでもないだろう、六階は先程爆破が起こった階だからだ。いくら未玖でも、爆破した階から電話をかけるほどトリッキーな真似はしないだろう。
では、残りは十一階か十六階、もしくは二一階だ。
実は、わたしにはひとつの算段があった。各階の廊下には防犯カメラが設置されている……。その映像を確認することが出来れば、彼女の居場所を特定することは可能なのだ。
しかし、今現在のわたしの居場所、つまり電話機からモニターへは少しの距離がある。内線が繋がっている最中にここから離れるのは少しリスキーだ。
だから電話後のほんの十数秒。未玖が電話機から非常階段へ逃げ込むまでのその間に、未玖のいる可能性がある階の防犯カメラを確認すれば、あるいは……。
絞り込めているのは三つ。つまり電話後に最大で二つの防犯カメラの映像を確認できればいいというわけだが……。二つを確認する時間はないかもしれない。
二つまで絞り込めれば、確認しなければならない映像は一つでいい。
しかしこの中でさらに絞り込むのは困難だろうか。いや……わたしは首を振った。もう一つ、その階に未玖がいるのかいないのか判断可能な階がある。
三五分前にスプリンクラーが作動した十六階だ。
おそらく十六階の床はスプリンクラーの影響で水浸しになっているはずだ。それこそ、ほんの僅かに足踏みするだけで電話機が拾うほどの水音が発生させられるくらいに。
わたしは確信を持って、未玖に気がつかれないように息を吸った。
「未玖?」声に僅かな緊張が走った。「あなたのうしろから、少し変な音がするんだけど……」
「はい?」未玖が訝しむような声を上げ、そして電話口に髪が擦れる音が続く……。わたしは耳を済ませた。聞き逃せば、勝算は消える。
次の瞬間、はっとした。
今、確かに音が聞こえた。間違いない、あの音は、あのぽちゃん、という音は、水音だ。振り返った未玖が水面に足を踏んだことで水がはね、音が発生したのだ。
奇跡のような事態が発生した。予感は確信へと変わった。
未玖の現在地は、十六階だ。
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