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甲高い音が部屋の中で反響して、わたしは現実に呼び戻された。わたしははっと目を開く。わたしは、眠ってしまっていたのだろうか。いつから、どのくらい……? ともかく起き上がろうとすると、強烈な痛みが頭に走った。
それより、この音。電話がかかってきている。わたしは部屋の時計を見た。午後十一時二九分。東京だとこの時間も外はかなり明るいが、だいぶ夜も更けている。
こんな時間に電話とは、もしかして会社の方で何かあったのだろうか。わたしは立ち上がり、酷い頭痛を堪えながら固定電話に応答した。
「もしもし……」名前を告げる。相手は何も言わない。
「あの、なんでしょう? こんな時間に、どうかしたんですか?」電話の向こうでは沈黙が続いていた。十数秒が経ちそれでも物音ひとつ発さない電話口の向こうに、やはりいたずらだったかと思い、切ろうとしたその時。
「……社長」聞き馴染みのある、冷淡な声が聞こえた。「……もしかして、未玖?」
「……ええ、そうです。未玖です」声からはやはり感情を読み取ることができない。というか、何を思って電話なんて……。わたしは声をひそめる。
「何かあったの? 大丈夫なの? もしかして、会社でまた何か……」
「いえ……」一人で住むには広すぎる室内に、ふとどこからともなく音が聞こえた。それが耳鳴りだということに気がついたのは数秒が経ってからだった。わたしは突然、漠然とした恐怖を感じ始めた。
「ならどうしたの。早く言ってちょうだい」
「…………いえ」
わたしは未玖に気がつかれないように、小さく舌打ちした。何を考えているんだ、このメイドは……。苛立ちが募る。
「何もないなら、もう切るわね。明日も早いの」
そう言って受話器を耳から離し、電話を切ろうとした。だがふと、耳鳴りの他に電話口の向こうでおかしな音が聞こえているように感じたのだ。
乾いた音。それが、単発的に続いている。あとは電子音だろうか。奇妙な甲高い音も、未玖の背後で響いているみたいだった。
「社長」未玖が告げる。「それでは最期になりますが」
相変わらず抑揚のない声。わたしはそれに、今まで感じたことのなかった薄ら寒さを感じた。何かがやはりおかしい。何だ、この違和感は。
未玖が、息を吸う音が聞こえた。
「死ーねよ、ばーか」
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