CHORNO-BOG

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 わたしはしばらく、その場に立ち尽くしていた。  未玖。なぜあの子がここにいて、拳銃なんてものを握っているというのだろうか。あの言葉も、この状況も、全てが不可解にまみれている。  再び監視カメラの映像へ視線を戻す。未玖が通り過ぎ、あとには何も映っていなかった。 「あれ?」その時わたしは、映像の中でエントランスの地面が少しばかり濡れて光を反射していることに気がついた。清掃にしては、時間が遅すぎるような気もするが……。わたしは首を捻った。そしてさらに、映像をじっと見つめているうちに、新たな疑問が生じてきた。  なぜ、ここの住人は誰も逃げ出そうとはしないのだろう。  さっき未玖がここを通り過ぎてから、もう数十秒が過ぎている。警報が響いてからは、もう数分だ。だというのに、逃げ出そうとする住人が一人もいないというのは、少しばかりおかしくはないだろうか。  わたしは裏口の映像も確認してみた。やはり誰も映っていない。逃げ出そうとする住人は、一人としていなかった。  まさか本当に、全員が言いつけを守って部屋の中に閉じこもっているのだろうか。そんなはずはない。ここはタワーマンションだ。大量の人間が、全員が全員落ち着いて行動できるとは思えない。集団の中には、その輪を乱す馬鹿な人間が一人はいる。  企業の社長として、それは痛いほどわかっている。  わたしは段々と頭が冷えてきた。馬鹿は放っておけばいい。こんなことを考えていても意味はない。わたしには他に、もっと考えるべきことがあるはずだ。にわかには信じがたいような、まるで悪夢みたいな事実が、ここには転がっているのだから。  これは今、確かに現実で起こっていることなのだ。  未玖はわたしを殺そうとしている。電話でのあの言葉は、未玖からわたしへ向けられた殺害予告なのだ。未玖は今、この部屋へ向かっている。  わたしに今、何ができる?
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