加虐嗜愛

律子

　次は律子だと学校中で話題になっていた。教師を含め，誰もが裕美子を虐めていた主犯が律子だと知っていたので，いつ律子が屋上から飛び降りるのかSNS上で賭けをする生徒まで出始めていた。

　そんな状況になっているにもかかわらず，律子は普段通りに過ごし学校にも当たり前のように来ていた。生徒達は律子にかかわることを嫌い，いつの間にか律子は学校中から無視されるようになり，朝，教室に入ると机の上に雑草の入った花瓶が置かれていることもあった。

　ある時は，律子がSNSで使っていたプロフィール画像を出力して黒縁を付けた遺影のような写真が机に飾られていることもあった。

　それでも律子は写真を破いてゴミ箱に捨てるだけで，普段通りの毎日を送った。それはそのまま学期が変わっても，学年が変わっても続いた。

　裕美子が屋上から身を投げて一年が経とうとしていたある日，刺青だらけの中年男性の遺体が学校のプールで浮かんでいるのが発見された。

　警察の調べでは重度の薬物中毒者で何度も施設に入ったことのある，前科持ちのチンピラということだった。夜の街で違法薬物の売買をしていたところを現行犯で逮捕されており，刑務所に入っていたが数年前に出所したのが最後の記録だった。

　警察関係者は，男が出所してからどこにいるのかまったくわからず，随分昔，男がまだ薬物に溺れる前に住んでいたこの街にいたことに驚いていた。男には家族はいなかったが，若い頃には随分と遊んでいたようで何人もの女を騙(だま)しては風俗に沈めていた。