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「別にいいじゃん……あんただって気持ちよかったんじゃないの……? なんなん……? そんな汚い肉塊にまでなって,いつまで根にもってんだよ……?」
律子は脚元に広がる小さな花弁に導かれて,ゆっくりと前に進んだ。無意識のまま進む律子の隣を裕美子も進んだ。プールサイドから校庭を横切るようにして進むと,目の前の校舎を見上げた。
「あんた……しつこいよ。もう,どうでもいいじゃん……あんた,もう三人殺してんだし。十分じゃね?」
裕美子がグラグラと身体を揺らすだけでなにも言わず,律子の背中を押すようにして歩いた。その間,律子は夢を見ているようで自分の幼かったころを思い出していた。そして屋上に着くと律子は我に返り,辺りを見回した。すぐ隣には裕美子が立っているのを確認して,律子はうんざりしたように呟いた。
「はいはい……ここから飛べと……。最後まで,執念深いね……」
律子は真っ暗な空を見ながら,大きく深呼吸した。
「あんたの処女を奪ったあいつ……私が六歳のときに,私を犯したんだよ。薬で頭がおかしくなっててね。実の娘を襲う親なんて最悪じゃない? しかも,六歳だよ」
「でも……よかったぁ。あんたが,あいつを始末してくれて……。これで,あたしも悔いなく逝けるよ。ねぇ,覚えてる? 入学式とき……体育館であんた,あたしの隣の席だったの。そのとき,あんたは父親に買ってもらったキャラクターのペンを自慢したよね。あの時,いつかお前を殺してやろうって決めたんだ……。そんで,お前が父親と楽しそうに歩いてのを見て,あ,いまじゃね? って思ったの」
そう言うと律子は屋上の端に立って,隣にいる裕美子に向かって人生で最高の笑顔を見せた。
「くだらない……みんな,さっさと死ねばいいんだよ……」
律子が大きくジャンプするように空に飛びだすと,裕美子に向かって両手の中指を立てた。
「バ~~~カ!! てめぇは一生そこで突っ立ってろ!! クソビッチが!!」
アスファルトに叩きつけられた律子の身体が辺り一面を真っ赤に染めた。
それ以来,この学校では屋上から飛び降りる生徒の霊が出ると話題になり,ネットでも頻繁に取り上げられるようになった。
肝試し感覚でここを訪れる多くの若者が裕美子が屋上から見ているのを気付かなかった。そんな楽しそうに騒いでいる若者たちの身体のなかには,裕美子の未来を無理やり奪われた怨念が少しずつ染み込み,拡散されていった。
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