裕美子

4/5
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 律子は玄関に座り込む裕美子を見てなにかを察したようで,静かにドアを閉めるとアパートの中へと入って行った。しばらくしてさっきの男を連れて玄関に現れると,裕美子を指差してなにかを(わめ)いていた。  男は面倒臭そうに律子の相手をしていたが,ゆっくりと裕美子に近づくと優しく手を差し伸べた。  裕美子はどうしてよいのかわからないまま立ち上がり,男の手を拒絶するようにドアに身体をつけ二人の様子を(うかが)った。  律子のキンキンと頭の奥に響くような叫び声だけが聴こえた。それがなにを言っているのか,男になにを伝えているのか裕美子には理解できなかった。  しかし,裕美子が気が付いたときには部屋の奥に乱暴に連れ込まれ,いつからそこに敷かれているのかわからない布団の上に押し倒されていた。  理解できないまま制服を乱歩に脱がされ,抵抗すると経験したことがないほど激しく殴られた。意識が朦朧とし,頭が真っ白になった。  天井の木目が前後に揺れているのを見ながら,一緒に前後する男のシルエットに恐怖で飲み込まれていた。煙草の臭いと甘いお香のような臭いが鼻につき,自分が犯されていることが現実とは思えず,ただただ苦痛に耐えるしかなかった。  そしてそこからの記憶が一切なく,気が付いた時には学校の屋上で一人で立っていた。全身が痛み,股間が火傷しているようにヒリヒリした。  股の間から不快な黄ばんだ液体が血と混じりながらドロリと垂れ,一歩脚を出すたびに身も心もすべてが引き裂かれ,目の前が真っ暗になっているように思えた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!