尚子

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尚子

 裕美子の死は原因不明の自殺とされた。虐めがあったことを口にする者はおらず,教師達も「なにもなかった」ことにした。  それから数週間して,尚子の様子がおかしくなった。尚子は自分の姿が映るものすべてを怖がった。  学校のトイレにある鏡が怖いと言ってトイレに入らなくなり,暗くなって教室の窓ガラスに人が映り込む時間帯は怯えて泣き出した。  生徒達は尚子が裕美子を虐めていた主犯格の一人だったことを知っていて,裕美子の死に対する罪悪感で頭がおかしくなったのだろうと話していた。  しかし尚子の目には,確実に裕美子の姿が見えていた。鏡やガラスに映る自分の隣で,常に裕美子が虚ろな表情で黙って立っていた。振り返っても誰もいないし,壁を背にして鏡や窓ガラスを見ても必ず隣に裕美子がいた。  なにをするわけでもなく,ただそこにいるだけだったが,尚子は徐々に追い詰められていった。  ある日,尚子が友達と電車に乗っていると,短いトンネルに入った瞬間,車窓に映る自分の横に裕美子が座っているのが目に入った。そこには友達が座っているはずだったが,窓に写る姿は明らかに裕美子だった。
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