英里

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 数日経ったある日,部屋の中にいると急に部屋の温度が下がっていくのを感じた。それと同時に生ごみのような腐敗臭が部屋をいっぱいにした。窓を開けて空気を入れ替えようとしたが窓は開かず,部屋を出ようとしても部屋のドアも開かなかった。  大声で「お母さん! お父さん!」と何度も叫んだが,その声はどこにも届かず,誰にも聴こえていないようで両親の部屋からもリビングからも返事はなかった。何度も部屋の壁を叩いたり蹴ったりしたが,それも無意味だった。  なにが起こっているのかわからず,ただただ恐怖でベッドのなかで泣き出してしまったが,それでも部屋の温度はどんどん下がっていった。  羽毛布団を頭から被り身体を小さくしたが吐く息が白く,全身から体温を奪っていった。しばらくして人の気配を感じ,布団の隙間から覗き込むようにして部屋のなかを見ると,ひどく汚れた脚が見えた。  両親が部屋に入ってきてくれたのかと思い,布団から顔を出すと目の前にグチャグチャになった裕美子がグラグラしながら立っていた。 「ひっ……」  次の瞬間,英里は裕美子に連れられるようにして裸足のまま真っ暗な歪んだ道路を歩いていた。街灯すらない見たことのない場所を歩いていくと,腐った水が溜まった沼の横にある小さな廃屋のようなゴミ屋敷へ出た。
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