裸火

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ちゃんと触れて。 声がして目が覚めた。 自分の声なのか誰かの声なのか分からないまま寝返りをうつ。 からだを包み込む毛布は暖かい。 ぬくもり。 細いからだをまるめてチカはぬくもりが逃げないようにする。 部屋の外からは父と母の話し声。ほんのりと香る朝食の匂い。 からだのなかで羽ばたくものが。 薄目を開けると部屋にさらさら流れ込む朝陽があった。 壁にかけられた夏物の制服がやけに眩しい。 毛布にくるまったままチカは制服に手をのばす。 あの制服を着て過ごした夏はまだ一度だけ。 青いチェックのスカートが気に入っていた。 ちゃんと触れて。 また声がした。 チェックのスカートからはっきりと。 チカの声だ。 ローゼンセマムのように白い指で制服をさす。 手がそろりと伸びて朝陽を押しひろげる。 指の先端がスカートに触れた。 ちりちりと、爪先で、指の腹でなでていく。 もっと触って。 チカと、成熟した女の声がまじり、からまり、もつれてチカの耳に入り込んできた。 声が内耳に埋没する、ずるりとした感触にチカはうめく。 耳から頭蓋内へと舞い込む蝶をチカは見た。 もっと強く。 声と一緒に制服が燃え上がった。 くる。 思うよりはやくチカは彼女の肌の吸い込まれるような冷たさを感じていた。
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