見なけりゃいいのに

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見なけりゃいいのに

夫の携帯電話で 女とのやりとりを見ている 出会いから恋人になるまでの過程を、 ずっと見ている (ああ、わたしとあなたもこうして、愛を育ててきたのだ) そう思いながら 夫の心の中は彼女でいっぱいで 夫にとってわたしはもう 日常の一部でしかない 日々 目にとどまる事もない風景の一部でしかないのだ 夫は 脈々と彼女との愛を育んでいる わたしは 淡々と食事を作り 洗濯をし 布団を干す わたしの内側が しんしんと破れていくのを 誰も知らない もう心は 形をとどめていない 心は 破れすぎて涙も出ない だけどどうしようもないほど 傷ついている 痛いのだよ とても このまま砕け散ってしまえば どんなにか楽だろう そうしたら その後に 夫も彼女と自由に 愛しあえば いい 砕け散ったわたしは、 天に登ろう 雲になる そして 世界に 金色の雨を 優しく降らすのだ すべての涙に、慈悲を すべての愛に祝福を わたしは すべてから解放される
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