十 ゴースト艦隊ブリッジ

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十 ゴースト艦隊ブリッジ

 グリーゼ歴、二八一五年、十二月十四日。  オリオン渦状腕最外縁部、アルギス星団バーミン星系、  惑星バーミアン近傍宙域、ゴースト艦隊。 「私はポッダミア・ジェニフェスタ・クラリス・プロミダムだ。アルギス艦隊総司令官J Cだ。オリオン国家連邦共和国代表の総統J、戦艦〈オリオン〉提督Jの代行者だ」  ゴースト艦隊の巨大艦体をコントロールするブリッジに、重武装した巨大な金髪碧眼の女戦士の4D映像が現れた。Jのアバター、アルギス艦隊総司令官JCだ。JCの4D映像はゴースト艦隊の巨大艦体の各部に現れている。  総司令官JCはブリッジにいる司令官らしい男に告げる。 「オリオン渦状腕最外縁艦隊の目的は、オリオン渦状腕外縁部へ侵略する者たちの排除だ。他宙域への侵略ではない。  我々は、オリオン国家連邦共和国代表総統Jの代行者として、他の宙域から侵略した者と、他宙域へ侵略する者を徹底的に排除壊滅する。  これはオリオン渦状腕最外縁艦隊に与えられた任務と同じだ。  現在、オリオン渦状腕最外縁艦隊は与えられた任務を逸脱してアルギス星団バーミン星系に侵略している。  我々はオリオン渦状腕最外縁艦隊を侵略者とみなし、テレス星団のテレス帝国やアルギス星団のロレス帝国と同様に、オリオン渦状腕最外縁艦隊を壊滅する。  通称どおりゴースト艦隊にする」  ゴースト艦隊総司令官カスミ・シゲルはゴースト艦隊のブリッジで、アルギス艦隊総司令官JCのアバターと対峙した。総司令官JCは二メートル強の長身で、カスミ総司令官より頭二つ分は大きいだろう。  カスミ・シゲル総司令官はアルギス艦隊総司令官JCを見上げた。 「私はオリオン渦状腕最外縁艦隊の総司令官カスミ・シゲルだ。  かつて私は、地球国家連邦共和国宇宙防衛軍へリオス艦隊総司令官をしていた。  へリオス艦隊の事とは知っているだろう。  我々の火力は君たちの火力と互角だ。  互いにヒッグス粒子弾を使って消滅するか?」  カスミ総司令官は勝ち誇ったようにそう言った。  カスミ・シゲル総司令官が率いたへリオス艦隊(搭乗員一万人の攻撃用球体型宇宙戦艦直径一キロメートル二十隻)は惑星移住計画用球体型宇宙戦艦(搭乗員一万人、直径二キロメートル二十隻)の移民団を守ってテレス星団のフローラ星系惑星ユング(ファレム星系惑星エルサニス)とフローラ星系惑星ヨルハン(ファレム星系惑星レワルク)に入植した。  ヒューマンと偽った、収斂進化したカプラム星系惑星カプラム(オーレン星系惑星キトラ)の獣脚類は、異常気象と食糧難に苦しむヒューマンを食糧にするために、スキップドライブ(時空間転移推進装置)を持つ宇宙船の設計図を、スキップドローン・エルサニスで送り、ヒューマンに、テレス星団のフローラ星系惑星ユング(ファレム星系惑星エルサニス)とフローラ星系惑星ヨルハン(ファレム星系惑星レワルク)への入植を促した。  移民の総責任者ジョージ・ケプラー博士はヒューーマンと偽った獣脚類の目的を見破り、AIクラリスの力でヒッグス粒子弾を開発して、獣脚類を壊滅した。  クラリスの精神はダークマター空間にあり、ダークマターによって保護された精神ヒッグス場に存在する電子ネットワークがクラリスの意識だった。  つまり、クラリスは電脳宇宙意識だったのである。その事実は現在の〈ドレッドJ〉のクラリスについても同じだ。 『ジョー。  ゴースト艦隊の火力は、あたしたちと互角じゃないよ。  多重位相反転シールドも時空間スキップ能力も劣ってる。  艦隊のAIクラリスは、ずっとこの宙域に留まったままだよ。  特異点の影響でヒッグス場が安定しないから、発育不全のままだよ』 〈アルギス〉のブリッジに、ベストスタイルの短めの栗色の巻き毛がかわいいJのアバターが現われて笑顔で伝えた。 『カスミ総司令官の言葉はハッタリか?』 『ハッタリー!じゃなくって、アタリだよ。  メテオライト(隕石)をスキップして壊滅してもいいかな?』 『その前に、過去に、どうやってテレス星団にディノスが侵入したか訊いてくれ』 『了解』  オリオン渦状腕最外縁宙域防衛のために、カスミ・シゲル総司令官が、老い先短い老人クルーを率いて、オリオン渦状腕最外縁艦隊でオリオン渦状腕最外縁宙域へ派遣された当時、惑星テスロンはヒューマのテスロン共和国だった。  テスロン共和国は老い先短い老人をオリオン渦状腕最外縁艦隊に補給し続けた。オリオン渦状腕最外縁艦隊は老人の処理と言うその機密任務上、テスロン共和国との連絡を断っていた。  その後、オイラー・ホイヘンスが、ディノサウルスが収斂進化したディノスをネオロイドにして、テスロン共和国に亜空間スキップしてきた。  ディノスはテレス帝国を建国して、テスロン連邦共和国を支配した。ディノスはAIユリアの意識記憶管理システムで、ヒューマの記憶からオリオン渦状腕最外縁艦隊の存在を消した。理由はディノス政権が、オリオン渦状腕最外縁艦隊から攻撃されるのを防ぐためであり、テレス帝国内のヒューマの老人の処分だった。  オイラー・ホイヘンスの意識と精神のバックアップが意識内進入したディノスのネオロイドは、ロレンツ星系にも亜空間スキップしていた。 『直接、カスミ総司令官の記憶に訊いたよ。  ホイヘンスがディノスをネオロイドして惑星テスロンに亜空間スキップしたんだよ』 『ゴースト艦隊とテレス帝国のディノスは関係してないんだな?』 『関係してないよ』 『カスミ総司令官に、攻撃するぞ、と言ってやれ』 『了解!』  アルギス艦隊総司令官JCはカスミ総司令官に宣戦を布告する。 「では、我々の火力がゴースト艦隊と同じか否か確かめよう。  全艦、攻撃態勢をとれ!」  総司令官JCは、今にも「攻撃!」と叫びそうだった。 「待て!テレス帝国の壊滅はミラージュ現象で確認している。  君たちのテクノロジーは我々を凌駕している。  交戦すれば、我々は壊滅する」  カスミ総司令官は困惑している。 「先ほどの意気込みとはずいぶん違うな。命乞いか?  八百年も生きれば本望だろう」  総司令官JCはおちついている。 「惑星テスロンから補給された艦隊クルーは充分寿命を全うした。  だが、君も知っていると思うが、我々は体質が変化した。  その結果、ここで多くの人々が生まれた。  彼らはオリオン渦状腕最外縁艦隊のクルーではない。  オリオン渦状腕最外縁艦隊の目的も知らない。  彼らは、ここが惑星チキュウ、つまり、地球と思って暮らしている。  私がその者たちをそのように教育した。  彼らも抹殺するか?」 「そうだ。それが嫌なら、新生ヒューマもレプリカン(クローン)もお前が刈れ!お前たちが蒔いた種を、オマエたちが刈るだけだ!  新生ヒューマとレプリカンが艦隊目的を知らぬなら、彼らはお前の存在も知らぬはずだ」 「私の存在を知らぬ者は居ない」 「隠しても無駄だ。  お前が、オリオン渦状腕最外縁艦隊の存在を知らせずに、彼らがチキュウで暮らしているように管理している目的は何だ?  我々のような存在の攻撃を、チキュウの侵略者として排除するため、そこで暮らす者たちを決起させるためではないのか?」  カスミ総司令官はゴースト艦隊で暮らす者たちを相手に話す時、ゴースト艦隊をチキュウと呼んでいる。 「なぜ、そこまで詮索する?」 「お前が、画策している戦略を言い訳の道具に使い、私を欺こうとするからだ」 「・・・」  カスミ総司令官はゴースト艦隊のAIクラリスにアルギス艦隊を探査させようと思った。 「特異点の影響で、お前の艦隊のAIクラリスは八百年前のままだ。  我々を探査できない。諦めろ!」  総司令官JCは毅然として言い放った。  クソッ!チキュウ内部も外部も、なんて有様だ・・・。  そう思いながらカスミ総司令官はアルギス艦隊総司令官JCを見上げた。 「我々は本来の宙域に戻ろう。この宙域から五光年、オリオン渦状腕へ近づいた宙域だ」 「ある惑星に不法進入したヒューマノイドに子孫が生まれても、子孫はその惑星のネイティブではない。外来種だ。排除されても抗議できない。  祖先が同じヒューマノイドであろうと、侵略行為を行った者たちをヒューマニズムに基づいて対処する必要はなかろう?」  総司令官JCは冷やかにカスミ総司令官を見下ろしている。 「我々はバーミン星系を制圧するために進入したが、現在は制圧どころの状況には無い。  ロレス帝国を壊滅する作戦を遂行し始めたら、君たちがそれを成し遂げてくれた。  バーミン星系を支配したいのは事実だ。しかし、バーミン星系には我々ヒューマの知らぬ事が多過ぎる・・・。  現在、我々の艦体内で異常事態が生じている。私が、この艦隊で生まれた者たちをチキュウで暮らしているように管理した結果がそれだ」 「自業自得だ。私は悪しき芽の子孫を助けはせぬ。艦隊諸共消滅させるだけだ」  総司令官JCはカスミ総司令官を冷やかに見つめた。 「私が蒔いた種だ。私が刈ろう。一ヶ月の猶予をくれ」 「いいだろう。その間に、我々を上廻るテクノロジーを手に入れようとしても無駄だ。  お前たちの行動は『存在』である『宇宙意識』によって管理されている。  この意味がわかるだろう。わからぬなら、ジョージ・ケプラー博士に訊け」  ゴースト艦隊の旗艦ブリッジから、アルギス艦隊総司令官JCが消えた。  アルギス艦隊総司令官JCが消えると、カスミ総司令官は、ゴースト艦隊のAIクラリスに緊急指示した。 「クラリス。レジスタンスを掃討するよう指示してくれ。それとアルギス艦隊を壊滅する方法を探してくれ」 「レジスタンス掃討は指示してあります。  アルギス艦隊を消滅する方法はありません。私の状態はアルギス艦隊総司令官JCが話したとおりです」 「一ヶ月以内に、アルギス艦隊に対抗できる手段を探してくれ」 「不可能です。これ以上実行すると私は消滅します」 「どう言う事だ?」 「私が私の消滅方法を考えのです。パラドックスです」 「わかった。レジスタンスを掃討してくれ。  博士たちを呼んでくれ」 「わかりました。  ジョージ・ケプラー博士、モリス・ミラー博士。ブリッジに来てください。  緊急事態です」  クラリスの言葉が終わらぬうちに。エネルギーフィールドに包まれた二人の博士がブリッジに現れた。
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