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九 宣戦布告
グリーゼ歴、二八一五年、十二月十四日。
オリオン渦状腕最外縁部、アルギス星団バーミン星系、
惑星バーミアン近傍宙域、アルギス艦隊、旗艦〈アルギス〉。
アルギス艦隊がバーミン星系惑星バーミアン近傍宙域に現れた。
旗艦〈アルギス〉の前方に、防御エネルギーフィールドでシールドされた青く輝くゴースト艦隊がいる。〈アルギス〉の左舷後方三光年にアルギス星系が、右舷後方三光年にロレンツ星系がある。二つの星系間も三光年離れている。
宙域上でアルギス星系とロレンツ星系バーミン星系は、オリオン渦状腕が成す二次元平面領域の遥か延長上にあり、その三星系の位置関係は正三角形を成している。オリオン渦状腕に最も近いのがバーミン星系で、カプラム星系惑星カプラムから三万光年以上離れている。バーミン星系からは、アルギス星系とロレンツ星系までは三光年だ。
旗艦〈アルギス〉のブリッジに防御エネルギーフィールドに包まれた青く輝くゴースト艦隊の4D映像が現れた。
現在、ゴースト艦隊は〈アルギス〉の4D映像探査を妨害していない。
「あの防御エネルギーフィールドは多重位相反転シールドだ。アルギス艦隊の兵器は通用しない」
コントロールポッドのジョーは、ゴースト艦隊のエネルギーフィールドをサーシャに示して訊く。他のクルーも、各自のコントロールポッドに着いている。
「ロレス帝国やイグアノンとラプトの同盟がゴースト艦隊と交戦したのはいつだ?」
「大きな交戦はガイア歴(テレス連邦共和国で使っているグリーゼ歴)に換算して半世紀ほど過去です。
バーミン星系に近づいたゴースト艦隊を、大々的にロレス帝国軍が攻撃したのです。
それ以前には頻繁に大きな交戦がありました。
以後、艦隊の攻撃はなくなり、偵察隊がバーミン星系に進入して小さな戦闘をくりかえしただけです。偵察隊はロレス帝国軍と同盟軍の軍事力を監視していたようです。
4D映像探査機能があるのに、なぜ、偵察隊をバーミン星系に送りこんだのでしょう?
今回のジェームズ・ケプラー少佐とアメリア・ミラー少佐の活動のためだけでしょうか?」
「おそらくそうだろう・・・」
キティーはサーシャに説明した。
ゴースト艦隊はディノスに従うヒューマを送りこんで、ロレス帝国軍を内部から攻撃するために同盟軍捕虜を守らせていた。タイミング良くジョーたちが現れて、艦隊が直接手をくだす事と無くロレス帝国は壊滅した。ロレス帝国と同盟国の戦力減退を狙っていたゴースト艦隊の目的は果たされた。
「ゴースト艦隊は我々の動きを知ってたのか?
特異点で時空間の反転が生じても、未来の時空間は予測できないだろう?」
ジョーはポッドのJを通してクラリスに訊いた。
「未来予測は不可能だよ」とJ。
「ゴースト艦隊はこの宙域の侵略者だ。排除する!
我々の祖先はガイアからの外来種だが、侵略とは意味が違う。
祖先は、テレス星団のカプラム星系惑星カプラムの在来種に移民を勧められた。
在来種は移民したヒューマを捕食する気だったが、逆にヒューマに壊滅された。
在来種の行ないは、ヒューマに対する侵略行為と同じだった。
これも、あの『存在』と呼ばれた『宇宙意識』、つまり、『ダークマターで保護されたヒッグス場に存在する素粒子ネットワークの意識』による定めだろう・・・」
ジョーは精神思考域にある、プロミドンと総統Jの記憶にあるニオブの思想、外来種を排除する、を思った。
「これで、ゴースト艦隊との交易は無しだな」とキティー。
「まだ、わからないよ」とJ。
「そうですよ。まだゴースト艦隊が壊滅したわけではありません。
私たちに友好的な者もいるかも知れませんよ」
そう言うサーシャは浮かない顔になった。同じ侵略者でも、獣脚類のロレス帝国のディノスは壊滅したのに、哺乳類のヒューマのゴースト艦隊を排除すると言うのが気にいらないのだ。
「あたしたちは、『宇宙意識』の意志に従ったニオブの意志を継いだんだよ。
クラリス自体が『宇宙意識』の申し子なんだから、クラリスと共に行動する限り、立場は、『宇宙意識』の意志を実行してきたニオブと同じだよ」
Jが複雑な表情でそう言った
「わかってる、J。今さらきれい事は言ってられない。
サーシャ、ゴースト艦隊を壊滅しよう!」
Jの言葉に、ジョーはテレス星団惑星ユングのマリー・ゴールド太尉と話しているような気持ちになった。マリー・ゴールド太尉はオリオン国家連邦共和国代表の総統Jの精神共棲体だ。戦艦〈オリオン〉提督の精神共棲体だ。そう感じるのは無理ない。Jは総統Jのキャラを借りてるんだ・・・。
「J。惑星シュメナのドック・アインにいたゴースト艦隊の二人の少佐はどうしてる?」
とキティー。
「ロレス帝国が壊滅した時、ゴースト艦隊に戻ったよ。
4D映像探査すると、こっちの様子がゴースト艦隊に知られるよ」
Jがゴースト艦隊の4D映像を示した。
「ゴースト艦隊に宣戦布告だ!
バーミン星系に侵略してるんだ。艦隊に、オリオン国家連邦共和国代表の総統Jが戦艦〈オリオン〉で実行した宙域の結果を見せてやれ!
ゴースト艦隊の兵力はアルギス艦隊を上まわっているが、我々には、クラリスがコントロールする〈ドレッドJ〉と、『宇宙意識』の意志と言える最強の兵器ヒッグス粒子弾がある。そうだろうJ」
「そうだね。キティー。
ゴースト艦隊が何もせずにロレス帝国の壊滅を見てたのは、我々のヒッグス粒子弾の威力を知りたかったんだよ。
だから、クラリスはヒッグス粒子弾をゴースト艦隊に使うために、ロレス帝国にヒッグス粒子弾を使わなかったんだよ。使ったら、その実態がわかっちゃうでしよう」とJ。
「J。ゴースト艦隊に、キティーの言葉どおりを伝えてやれ!」とジョー。
「ポッダミア・ジェニフェスタ・クラリス・プロミダム、アルギス艦隊総司令官JCを演じていいの?」
「テレス帝国を壊滅したのはオリオン国家連邦共和国代表の総統Jだ。
『アルギス艦隊総司令官JCは総統Jの代理だ』と伝えておけ」
「了解!じゃあ、布告するね」
『AIモーザ。アルギス艦隊全艦に最強の戦闘態勢をとらせろ』とJ。
「了解しました。
「全艦、レベル10の最強戦闘態勢をとれ!
アルギス艦隊総司令官JCがゴースト艦隊に宣戦布告する。
全艦、レベル10の最強戦闘態勢をとれ!
戦闘に備えろ!」
ブリッジのアルギス艦隊各艦を示す4D映像に、
「了解」
とグリーンシグナルが点灯した。
ゴースト艦隊は、多数の攻撃用球体型宇宙戦艦(直径一キロメートル)と、これまた多数の惑星移住計画用球体型宇宙戦艦(直径二キロメートル)から成る、直径五百キロメートルの小惑星規模である。
一方アルギス艦隊の艦体総数は三百隻だ。旗艦〈アルギス〉の艦体は、全長四キロメートル。巨大な蝙蝠が翼を拡げたような立体アステロイド型だ。アルギス艦隊の他の艦も立体アステロイド型で最大長は一キロメートルである。
ゴースト艦隊の戦艦総数はアルギス艦隊の数千倍を超える。
しかし、ゴースト艦隊と呼んでいるが、ゴースト艦隊は直径五百キロメートルの小惑星規模であるが各戦艦には分離はしない。小惑星規模の巨大な戦艦のままだ。
旗艦〈アルギス〉のブリッジに、クラリスに似た金髪碧眼の、重装備したカプラム戦士が現れた。Jのアバター、アルギス艦隊総司令官JCだ。
『ゴースト艦隊は完全に一体化してる。攻撃用球体型宇宙戦艦や惑星移住計画用球体型宇宙戦艦には分離はできないよ。この事が、あたしたちの攻撃の要だよ・・・』
Jが勝ち誇ったように、ジョーとキティーとサーシャに伝えた。Jに考えがあるのだ。
『マザー。4D映像を送ったよ。コントロールしてね!』
Jは全ての4D映像を、カプラム星系惑星カプラムの静止軌道上にいる〈ドレッドJ〉のブリッジへ送っている。Jの隣りに、バトルバトルスーツだけのクラリスが現れた。
『了解したわ。気をつけるのよ』
〈ドレッドJ〉のクラリスは、〈ドレッドJ〉のブリッジに現れたアルギス艦隊各艦内部4D映像を使って、アルギス艦隊の旗艦〈アルギス〉とアルギス艦隊全艦のAIモーザをコントロールしている。
『はあい。マザー』
『それでは、またね』
クラリスのアバターが消えた。
「宣戦布告するよ~」
4D映像のアルギス艦隊全クルーは固唾を呑んだ。アルギス艦隊総司令官JCがゴースト艦隊に宣戦布告をするのを待った。
「私はポッダミア・ジェニフェスタ・クラリス・プロミダムだ。アルギス艦隊総司令官JCだ。オリオン国家連邦共和国代表の総統Jである戦艦〈オリオン〉提督Jの、代行者だ」
アルギス艦隊全艦のあらゆる映像モニターに、Jが、アルギス艦隊総司令官JCとして、金髪碧眼のカプラム戦士の姿で現れている。
この4D映像はゴースト艦隊の各部に現れているはずだ、とジョーは思った。
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