27人が本棚に入れています
本棚に追加
二 宙域戦争
突然、居室が揺れた。
「なんだ?」
ジョーはクラリスに訊いた。
「見慣れないシャトルが接艦しました」
クラリスが答えた。
「シールドが破られたのか?」とジョー。
「シールドは健在です。シールド内に時空間スキップしました」
「なんて無謀なんだ!」
キティーが呆れている。どんな場合であれ、艦艇は、他の艦艇のシールド内にスキップしない。艦体内に他の艦艇が出現すれば互いが大破する。
「いったいどんな奴が乗ってる?
4D映像を見せてくれ」
ジョーはクラリスに4D映像探査させた。
居室の空間にシャトルのコクピットの4D映像が現れた。頭の上に後ろ向きのホーンのような突起がある、目の大きな獣脚類を連想する顔が現れた。
「ディノスか・・・」とキティー。
「イグアノンです」
イグアノンは草食の獣脚類イグアノドンを先祖とするヒューマノイドだ。
「なぜ危険な時空間スキップをするんだ?」とジョー。
「訊いてみます。意識に直接語りかけると驚くから、言葉で訊くわ・・・。
あなたはどうしてここに来ましたか?」
クラリスは古代テスローネ言語で訊いた。
イグアノンはしばらくボンヤリしていたが、言葉を理解した。
「あたしはサーシャ。
助けてください。
オリオン渦状腕最外縁部で・・・」
と言ったままシートに倒れた。
「どうする?」とキティー。
クラリスが答える。
「シャトルに大気漏れや有害物質の混入はありません。
シャトル内の大気成分は〈ドレッドJ〉とほぼ同じで無菌状態です。
〈ドレッドJ〉に収容した場合、イグアノンが我々のウィルスの影響を受ける可能性があるわ」
「我々がシャトルへ行って治療するか、クラリスが牽引ビームで治療するかだ。
オリオン渦状腕最外縁部で何があったか、思考記憶探査してくれ」とジョー。
「イグアノンに生命の危険はありません。
思考記憶探査します・・・」
クラリスが探査ビームをシャトルへ伸ばした。優しく包むように、イグアノンの頭部と背中を探査ビームが走査している。
ジョーの居室に、クラリスが探査ビームで探査したオリオン渦状腕最外縁部の4D映像が現れた。ゴースト艦隊は多重位相反転シールドに包まれて青く輝いている。
4D映像が三光年遠方へ移動した。多数の惑星から戦艦が飛びたち、三光年離れた惑星との間で、ラプトとイグアノンの勢力と、ディノスの勢力に分れて抗争を繰り広げている。ゴースト艦隊はこれを傍観している。
「こうなった原因も見せてくれ」
ジョーはクラリスに言った。
クラリスはイグアノンの思考記憶探査結果を4D映像化した。
ラプトの議員とイグアノンの議員たちが同盟を結んだ。横暴なディノスの政権に対抗するためだが、圧倒的な戦力のディノス勢力に、同盟勢力は日々衰退している。
そのため、イグアノンの議員の妹サーシャは、テレス星団のディノス政権を壊滅したと思われるイグアノン族に救援を求め、シャトルでスキップしてきたのだ。
「このイグアノンは、なぜ、テレス星団のディノス政権が崩壊したのを知ってる?」
イグアノンは我々のテクノロジーを越える物を持っているのか、とジョーは思った。
「テレス星団で使ったヒッグス粒子弾がヒッグス場を変化させ、その影響がワームホールを通じて他時空間に現れたのです。
オリオン渦状腕最外縁部の新形態ワームホールで、惑星テスロンと惑星ユングのヒッグス場がミラージュ現象を生じたのね」
「テレス星団の出来事がオリオン渦状腕最外縁部の宙域に知れ渡ったのか?」
クラリスの説明にキティーが驚いている。
「おそらくそうです。ゴースト艦隊は任務のために通信を断ってる。
イグアノンは、ワームホールのミラージュ現象からテレス星団の情報を得た可能性があるわ」
「テレス星団のラプトやイグアノンは極めて少数だ。
オリオン渦状腕最外縁部のイグアノンは、ラプトとイグアノンがテレス星団のディノス政権を倒したと思ってるのか?」とジョー。
「オリオン共和国代表の総統Jの今後を考え、私がニオブの痕跡を消したからよ」
クラリスがそう説明した。オリオン共和国代表の総統Jの波動残渣をダークマターのヒッグス場にスキップさせて消去したのだ。
「イグアノンが気づいたぞ。状況を説明してやれ」とキティー。
「わかったわ・・・」
クラリスはニオブの存在を語らぬまま、これまでテレス星団で行われた抗争を古代テスローネ言語で説明した。
「・・・」
イグアノンのサーシャは何が起こっているか理解できない。
「イグアノンを〈ドレッドJ〉に収容できないか?」
「〈ドレッドJ〉の大気に対する、イグアノンの免疫機能を探査する・・・。
やはり、呼吸フィルターが必要だわ」
「イグアノンに、テレス星団で起こった事を4D映像で説明し、呼吸フィルターをシャトルへ送ってくれ」
「わかったわ・・・」
クラリスはすぐさま4D映像を使って説明した。
「サーシャが理解しました。
呼吸フィルターを転送(時空間スキップ)したわ。
シャトルを着艦ベイに牽引します・・・・」
〈ドレッドJ〉の最下層にある着艦ベイの3D映像が現れた。着艦ベイから連結部がシャトルのハッチへ伸びて接続し、シャトルのダイアフラムが開いた。呼吸フィルターで顔を覆った小柄なサーシャが出てきた。誘導しているのは金髪碧眼のクラリスのアバターだ。
「これからどこへ行くんですか?」とサーシャ。
「あなたのシャトルと、この艦の大気組成は同じですが、この艦内は無菌ではありません。
あなたは二層階の無菌室に入ってもらいます。
私もいっしょよ。
そこで、この艦の司令官があなたに会います。もちろん3D映像でよ」
クラリスはサーシャを着艦ベイの一層階にある滅菌室へ導いた。ここでの滅菌処理を省き、サーシャは球状エネルギーフィールドに包まれて、滅菌室の壁のダイアフラムから、一層階上の無菌室へ移動した。
無菌室に入った。室内はサーシャとクラリスだけだ。無菌室と呼ばれているが、乗組員の居室と同じだ。応接間や寝室があって二人で暮らせるだけの広さがある。
まもなく3D映像のジョーとキティーが現れた。
「私は司令官のジョーだ。こっちは艦長のキティー。
あなたを案内したのクラリスだ」
クラリスの翻訳を通じて、ジョーはヒューマの公用語である惑星ガイアの言語ガイアナで自分たちを紹介してサーシャをソファーに座らせ、テレス星団の状況を説明した。テレス星団の公用語テスランはガイアナを母体にしている。
「あなたが気を失っている間に、あなたの記録を読ませてもらった。
オリオン渦状腕最外縁部の抗争はラプトとイグアノンの同盟軍が劣勢か?」
「ええ、同盟軍は、ディノス勢力に劣勢を極めています。
テレス星団のディノスに、イグアノンとラプトが勝利したと思っていました。ヒューマの功績とは思いもしませんでした」
「ゴースト艦隊は、あなたたちの抗争をどう考えてる?」とキティー。
「共倒れを狙っています」
「ゴースト艦隊は、まさにゴーストだな」
ジョーは驚いたと言うより呆れた。テレス帝国のディノス政権が倒れた今、ゴースト艦隊を支配する存在は消えた。ゴースト艦隊は独立国家として他国に干渉しないらしい。
「あなたたちがテレス星団のディノス政権を倒したのなら、オリオン渦状腕最外縁部のディノス政権も倒してください」
サーシャは大きな目でジョーとキティーを見ている。
「あなたたちの宙域は、何と呼ばれてる?」
ジョーは話しながら、
『クラリス。ニオブのヒッグス粒子弾を作れるか?』
クラリスに精神波(精神思考、心の領域での思考)で伝えた。
『作れます。マスタープロミドンとヒッグス場を通じて交信できますから』
マスタープロミドンは、オリオン共和国代表の総統Jが使用している、アクチノン艦隊の旗艦〈オリオン〉のAIPDのことだ。
『獣脚類の宙域にある兵器を分析してくれ』
『わかったわ』
「サーシャ。あなたの思考から宙域を4D映像化していいかしら?」
クラリスはサーシャの同意を求めた。
「ええ、映像化してください」
「映像化します・・・」
クラリスはサーシャの思考を4D映像化した。
無菌室内に三つの星系の4D映像が現れた。
「アルギス星団です。ここにアルギス星系、ロレンツ星系、バーミン星系があります。
ここにあるアルギス星系は、イグアノンとラプトの星系です。アルギス星系の惑星アギレスと惑星ロギレスが、イグアノンとラプトの惑星です。
こっちのロレンツ星系にディノスが居住しています。惑星ロレンツ、シュメナ、イショカンを支配してます。
一方、バーミン星系が、アルギス星系とロレンツ星系から等距離にあります。三星系は正三角形の頂点に位置して互いの距離は三光年です、このバーミン星系をめぐって抗争が激化してます。
もともと、アルギス星団全宙域は、イグアノンとラプトの星団でした。
そこへディノスが侵略してきたのです。テレス星団の年代なら十世紀以上前の話です。
ディノスは他の時空間からアルギス星団とテレス星団に亜空間スキップしたようです。
アルギス星団とテレス星団の、ディノス出現の時間的違いは、平行宇宙の特異現象のようです。
テレス星団のディノス政権を倒したように、アルギス星団のディノスの政権を倒して欲しいのです」
『ディノスの兵器分析が完了しました』
クラリスが獣脚類宙域の兵器分析を報告する。
『アルギス星系とロレンツ星系の兵器種は、テレス帝国とほぼ同じです。
しかし、アルギス星系の兵器量にくらべ、ロレンツ星系の兵器量が優勢です』
「ディノスはロレンツ星系のディノス政権を何と呼んでるの?」
クラリスがサーシャに訊いた。
「ロレス帝国です。皇帝ホイヘンスが支配しています。
アルギス星系の惑星アギレスはイグアノン共和国、惑星ロギレスはラプトス共和国です」
「初代皇帝はオイラー・ホイヘンスか?」
ジョーは、マリー・ゴールド太尉に精神共棲していた、オリオン共和国代表総統Jの記憶をたどって訊いた。
「歴史上はそうなってます。
なぜ初代皇帝を知っているのですか?」
サーシャが奇妙な眼差しでジョーを見ている。
「話せば長くなる。説明してやってくれ」
ジョーはクラリスに目配せした。
『ニオブもホイヘンスを追っているはずだ。ホイヘンスの名が出た今、ニオブの存在を隠す必要はないだろう』
ジョーはそうクラリスに精神思考した。
オイラー・ホイヘンスの存在を全て消したはずなのに、まだホイヘンスのネオロイドやレプリカンやペルソナが存在している。
ニオブのクラリック階級はアーマー階級のニオブと違い、変身能力を無くした。
ヒューマノイド社会に紛れるのに、ネオテニーに意識内侵入してネオロイドや、ネオロイドの子孫をセルにして新たなネオロイドや、新たなヒューマノイドの身体をセルにしてネオロイドになった。あるいは、配偶子から作ったバイオロイドをセルにして乗り移ってペルソナや、クローンのバイオロイドをセルにしてレプリカンになった。
「サーシャの意識と記憶に直接説明したいのですが、いいですか?」
クラリスはジョーの精神思考を読んでサーシャに言った。
「意識思考管理ですね。なさってください。
よければ、私の意識と記憶を皆さんで共有してください。
アルギス星団の現状を理解していただけます」
サーシャは意を決して話している。他宙域から援軍を得なければ、イグアノンとラプトの同盟軍がディノスのロレス帝国軍に壊滅される可能性が高い。
クラリスはサーシャとジョーとキティーの意識記憶を探査し管理した。三人は互いの意識と記憶を共有するようになった。
「さて、サーシャも我々の記憶を得た。これでクラリスの翻訳も不用だ。
免疫機能も確立した。呼吸フィルターはいらない」とジョー。
元来、獣脚類と哺乳類は、同じ大気組成で発生して進化したヒューマノイドだ。
サーシャが訊く。
「ミラージュが見えたり、体細胞年齢が若返るのも、特異点現象ですか?」
「そうだ、サーシャ。対策を考えよう」
キティーはサーシャを立たせ、無菌室に現れた球状エネルギーフィールド内へ移動させた。無菌室の天井のダイアフラムが開き、球状エネルギーフィールドは四層階の居室へ移動した。
居室に入るとキティーはテーブルの横の収納器を示した。
「部屋の作りは無菌室と同じだ。
欲しい物を言えば、必要な物がそのテーブルに現れる。
使った物は全てその収納器に入れてくれ。
分解されて再生される」
「わかりました。同盟軍を救う対策を講じてください」
サーシャの記憶によれば、捕虜になった同盟軍兵士は多い。皆、ロレス帝国軍のドックで奴隷として戦艦を建造させられている。建造した戦艦に細工が見つかれば、建造に携わった兵士全員が抹殺される。直接、ロレス帝国を大々的に攻撃すれば、ロレス帝国軍は同盟軍の捕虜を盾にする。
「捕虜になった同盟軍兵士を盾にするとは卑劣だな・・・」
ジョーはディノスの残虐さを感じた。
「捕虜を救出するのが先だな」とキティー。
だが、戦艦をロレス帝国軍のドックへ時空間スキップするわけにはゆかない。まかりまちがえば、時空間スキップした戦艦がドック内に出現し、ドックもろとも戦艦が大破して大量の死者が出る・・・。キティーはそう思った。
「ドックへ浸入して、建造した戦艦を盗んで脱出するしかない。
建造後、戦艦はどこでエネルギー充填する?」
ジョーはクラリスに訊いた。
「ロレンツ星系の惑星ロレンツ、シュメナ、イショカンにロレス帝国軍のドックがあるわ。
そこで直接エネルギーと兵器と弾薬を充填して、各惑星の静止軌道上へスキップするわ」とクリラス。
「ディノスは危機管理が杜撰です」
サーシャが説明する。ディノスはドックが攻撃されて大打撃を受けるとは思っていない。
『大量の捕虜がいるから、同盟軍はドックを攻撃しない』
と考えているのだ。戦艦の生産効率だけを考えて安全性は二の次だ。
「捕虜にヒューマもいます。老化しない貴重な労働力ね」とクラリス。
ゴースト艦隊との戦闘で、ゴースト艦隊の攻撃用球体型宇宙戦艦から発進した偵察用シャトルが何機か捕獲された。それらの乗組員が捕虜となっている。捕虜は特異点の影響で老化しない。ヒューマより特異点の影響が少ないラプトやイグアノンやディノスに比して、ヒューマは貴重な労働力だ。
「なんてことだ!許せん!」
キティーが怒っている。
「ロレス帝国の三惑星ロレンツ、シュメナ、イショカンのぞれぞれに一箇所、四つのドック群がある。
捕虜はどのように分けられてる?」
ジョーはクラリスに訊いた。
「惑星ロレンツに捕虜はいません。
惑星シュメナにはイグアノンとラプトの捕虜がいます。
惑星イショカンにはヒューマです」とクラリス。
「一つのドックから戦艦を奪えば、他のドックの捕虜が抹殺される」
そう言って、ジョーは精神波でクラリスに伝える。
『いっそのこと、ヒッグス粒子弾を使ってディノスを壊滅するか?』とジョー。
『いけません。種族の能力を使わなければ、今後、繁栄できません』とクラリス。
『このままではディノスが繁栄する。ディノスは悪しき芽なんだろう?』
『そうです。ディノスには協調性も協調能力もありません』
『ゴースト艦隊は傍観だけか?』とジョー。
『抗争で残るのは衰退したディノスです。ゴースト艦隊はこのディノスを壊滅する気です』
『イグアノンとラプトを犠牲にすることはないだろう』
『ゴースト艦隊にとって獣脚類は敵のようです。入植時の記憶でしょう』とクラリス。
『どうしたらいいか思いつかない』とジョー
「サーシャ。惑星シュメナに、ヒューマの捕虜はいるか?」とジョー。
「ディノスに迎合するヒューマがイグアノンとラプトの捕虜を管理してます」
「惑星シュメナとイショカンに潜り込んでも怪しまれないな」
ジョーは、ディノスがヒューマを識別できないのを知っている。
「アルギス星系のイグアノンとラプトが、惑星シュメナに乗りこんで戦艦を奪う試みを何度も検討しましたが、実行には至りませんでした。気づかれずに潜入する手立てが無いのです」とサーシャ。
惑星アギレスと惑星ロギレスの同盟軍は、時空間スキップ可能なシャトルを持っている。イグアノンやラプトがシャトルでディノスの惑星シュメナに時空間スキップすれは、シャトルの機影が確認されてただちに潜入が気づかれる。
そのため、同盟軍は、テレス星団のディノス政権を壊滅したラプトが特殊な時空間スキップ方法を持っていると判断し、サーシャをシャトルで〈ドレッドJ〉が航行している時空間にスキップさせたのだった。
「まず、状況を見よう。
クラリス、惑星シュメナを4D映像探査できる?」とキティー。
「4D映像探査可能よ。今なら特異点が安定してヒッグス場の揺らぎがありません」
居室内に惑星シュメナの4D探査映像が現れた。プレーリーの地表が拡大し、ロレス帝国軍のシュメナ軍事基地になり、基地内部のドックを真上から見る映像になった。
四つの巨大ドック群が軍事基地を囲んでいる。シュメナ軍事基地は首都シュメナから五百キロメートル(獣脚類の単位では、五百キロレルグ)北に位置して、惑星シュメナの軍事拠点だ。
「ドック周囲は戦闘機の発着場だ。
ドックは昼夜兼行で宇宙戦艦の建造修理整備と、宇宙と大気圏兼用の戦闘機を建造修理整備してる。こいつはやっかいだ・・・」とキティー。
4D探査映像が水平方向の映像に変った。
「こいつを見ろ。そしてこっちも」
ジョーは4D探査映像を見て、ディノスが「アイン」と呼ぶドックの高架の上にいるヒューマの男と、その上の司令室のような部屋にいるヒューマの女を示してキティーに微笑んだ。男はオリーブ色で金髪碧眼の長身、女は白くて金髪碧眼の中背、髪は短い。
「私は嫌だよ!せっかくここまで伸びたんだ。いまさら切れと言うな!」
キティーはジョーの意図を読んで食いついている。
「ジョーだって長い髪が好きだと言ったじゃないか!ここまで伸びるのにずいぶん苦労したんだぞ。当直中はひっつめにして、休む時は伸ばして・・・。
ジョーのため伸ばしたんだぞ!」
「夫婦がお互いのために行動するのは、良きことですね」
サーシャは頭部に生えている七色の羽毛を撫でた。
「イグアノンの髪はこの羽毛です。ヒューマの髪は頭部保護に優れています。
イグアノンの髪は保温効果が主です。ヒューマのように長くなりません」
また伸びるのだから切ってもかまわない、とサーシャは言いたいのだ。
「他人事だと思って適当なことを言うな!イグアノンの救出のために、なんで私が髪を切らなけりゃいけないんだ?」
サーシャに向ってキティーが喚いた。
「まだ救出すると言ってない。
救出しても、同盟軍はロレス帝国軍に対して優性にはならない。
惑星シュメナの軍事基地を奪えば話は別だ。捕虜を救うだけでは体制に変化はない。
惑星シュメナにいる同盟軍の捕虜で、何隻の戦艦を動かせる?」とジョー。
「六隻です。それには準備が必要です。シュメナ軍事基地へ時空間スキップして捕虜と打ち合せ、タイミングをみて宇宙戦艦を奪うしかないわ」
そう言ってクラリスが笑っている。
「ほら、もう同盟軍を救う気でいるじゃないか。髪は切らないぞ!」
喚いているキティーの背後にクラリスが近づいた。エネルギーフィールドが構成した指でキティーの髪をひっつめに編み込んでいる。これならキティーの髪はショートカットと同じ程度だ。
「そんなことしたって・・・」
4D探査映像に現われている、ドック・アインの高架の上にある司令室の隣りに、キティーのミラー4D映像が現れた。
「似てる・・・。もしかしたら先祖かも知れない。
クラリス。探査できるか?」
ジョーはクラリスに、4D探査映像に現れているヒューマを探査するよう指示した。
すぐさまクラリスが探査して、結果を伝えた。
「ミトコンドリアDNAが一致しました。キティーの先祖です」
クラリスが遺伝子を示している。
「こっちはジョーの先祖です。すり替わるチャンスよ」
「クラリスが平行時空間を操作したのか?」
あまりも条件が整いすぎている・・・。そうジョーは思った。
「さあ、どうでしょう」
クラリスは笑っている。
答えない事自体が平行時空間を調整した証だ。クラリスはすでに、ヒッグス場を変化させて平行時空間を変更し、悪しき芽を摘むよう画策している・・・。
ジョーはそう思った。
最初のコメントを投稿しよう!