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三 救出作戦
「ロレス帝国のコントロールシステムに、コントロールポッドはあるのか?」とジョー。
「あります。システムは、ほぼ〈ドレッドJ〉と同じです」とクラリス。
「ゴースト艦隊もか?」とキティー。
「そうです」
「やっかいだぞ・・・」
キティーが顔をしかめた。ロレス帝国の戦艦を奪えば、我々だけでなくゴースト艦隊も、ロレスの戦艦をコントロールできる・・・。
「PD(プロミドン)のシステムを使っています。
皇帝ホイヘンスが使っていたシステムの基礎が同じだから、現在も、異なるテクノロジーへは変化しません。全ての戦艦が、コントロールポッドでコントロールできるわ」
クラリスが笑顔で余裕を見せている。
「コントロールポッドは形状も同じか?」
「ディノスに合わせた、大きな回転楕円体です」
「ロレス帝国の戦艦の駆動システムは何だ?」とキティー。
「PDドライブ。〈ドレッドJ〉と同じです。ゴースト艦隊もですよ」
「それなら、どこへでも潜り込めるな・・・」
ジョーはコントロールポッドごとロレス帝国の戦艦へ移動することを考えた。
「冗談じゃない。そんな所へ行けるか」
キティーは憤慨している。
「行かないんですか?」
サーシャがキティーの顔を見あげた。イグアノンはキティーより小柄だ。
「ああ、行かないぞ。新婚なんだ。新婚旅行も行ってないだぞ」とキティー。
「アルギス星団にハネムーンしてください」
サーシャはジョークを言っているわけではない。ヒューマの公用語であるガイアの言語ガイアナの使い方に慣れていないだけだ。
「くそ、ああ言えばこう言うで、口の減らないイグアノンだ!」とキティー。
「種族の命運がかかってますから」
サーシャはいたって冷静だ。キティーの挑発には乗らない。
「なんなら、私とジョーとで行きますか?」
サーシャはジョーになんらかの関心があるらしい。
「冗談はよしてくれ!私の夫を奪うんじゃないよ!」
キティーは呆れた。ヒューマとイグアノンは精神的にも肉体的にも異なっている。
「クラリス。三人が乗れるコントロールポッドを作ってくれ。
それとも三人がそれぞれのコントロールポッドを使う方が効果的か?」とジョー。
「個人行動は危険です。三人が一つのコントロールポッドでスキップするのが最良です」
そう言ってクラリスが考えこんでいる。
「何が起こる?」とジョー。
「特異点近傍で重力場の変動が時空間スキップに影響を与える可能性があります」
クラリスは真面目に話している。かなり深刻な現象らしい。
「どうなる?」
キティーの意識に疑問が現れて拡がった。心のどこからか、ロレンツ星系の惑星シュメナにあるロレス帝国軍のドック・アインへ時空間スキップするイメージが浮かんでいる。
「時空間スキップの終点誤差が生じます。誤差範囲はワームホールの口径程度です。
場合によっては終点が定まらない可能性があるわ・・・」
クラリスが曖昧な表情になっている。確実な数値を断定できないらしい。
「どれくらいだ?」とジョー。
「数キロから数千キロでしょう・・・」
「スキップした先がドックだと思ったら、プレーリーのど真ん中なんてのはやっかいだぞ」
そうなった場合、ドックへたどり着くのにどうすればいいだろう・・・。
キティーがそう思うと同時に、自身の意識に、ドック・アインへスキップするイメージが確実にできあがりつつあるのに気づいた。いったいこのイメージは誰が作ってるのだ・・・。キティーはイメージの発信源を探った。
「プレーリーの中央へ時空間スキップした場合、そこから再時空間スキップできないのですか?」
サーシャもプレーリーからドック・アインへ移動する手段を思考している。
ドック・アインへの時空間スキップイメージはサーシャからか・・・。このイグアノン、ただ者じゃないぞ・・・キティーはそう思った。
「より安定した重力場が必要です。特異点近傍は重力場の変動が大きすぎます・・・」
ふたたびクラリスが考えこんでいる。
「クラリスが平行宇宙を移動させたんだ。重力場を安定できるだろう」とジョー。
「平行宇宙と特異点の現象は異なります・・・。
ヒッグス場が安定な時にスキップするしか方法がないわね・・・」
ヒッグス場を連続させれば平行宇宙は可逆的に連続する。特異点の重力場はヒッグス場そのものの揺らぎだ。いわば宇宙意識の濃淡のようなものだ。
「それまでにコントロールポッドを準備できるか?」とジョー。
「ちょっと待て。三人以上が搭乗できるコントロールポッドはあったぞ。
過去に、三人で同時に行動する箇所で使ってた・・・」
キティーは記憶を辿った。
「レールガンの砲座です」
サーシャが記憶を紐解いて記憶映像をキティーの意識に伝えた。
〈ドレッドJ〉にレールガンが配備された当初、上部砲座、下部砲座、前部砲座、後部砲座の四砲座を、四人のオペレーターが一つのコントロールポッドに搭乗して制御した。
その後、各砲座に一つずつコントロールポッドが配備され、オペレーターの安全性と攻撃の確実性が向上した。
「古いタイプです。改善しましょう。格納庫にストックがあるはずよ」
居室空間に〈ドレッドJ〉の格納庫のストックオペレーティングルームが現れた。クラリスの指示で、メカニックロボットが活動を始めている。
「五時間はかかります。その間に、ドック・アインの潜入をシミュレートしましょう」
クラリスは潜入方法を考えている。
「待てっ!どうもおかしいぞ!。
ドック・アインへコントロールポッドで時空間スキップするのは決定か!?
いつ誰が決定した?決定したのはサーシャだろう?」
キティーはサーシャを睨んだ。妙な意識を飛ばしやがって。あれは精神思考か?ジョーと同じじゃないか・・・。
「これは獲物に意識を植えつけるレプテルの能力レプティカです。
アルギス星団にレプテルは非常に少数です」
サーシャが言うレプテルは、爬虫類レプタイルを先祖に持つヒューマノイドだ。レプテルはディノスに捕獲捕食されて、その数が激減している。
「話をすり換えるな!ガイアナの言語に、蛇に睨まれたカエル、と言うのがある。
私はカエルじゃないぞ!私とジョーに、サーシャの意識をすり込ませただろう?」
憤慨しながらキティーはサーシャを睨んだ。
「私の意識をすり込ませました。キティー艦長。協力してください!
私は、ロレス帝国の初代皇帝オイラー・ホイヘンスがディノスを連れて、この平行宇宙へ亜空間スキップした事を、あなたたちから教えられました。
ディノスはこの時空間に存在しなかった種族です。
外来種をこの時空間に存在させてはなりません!」
サーシャの真剣な感情が熱くキティーに伝わってきた。
「クソッ。ハネムーンが惑星シュメナのドック・アインとはな・・・」
キティーか呟いた。
「時空間スキップしてくれるんですね!」
サーシャがキティーに飛びついた。だが、サーシャはキティーをすり抜けた。
「あははっ、キティーが3D映像なのを忘れてました・・・」
その時、クラリスが居室内にコントロールポッド内部を4D映像化した。
「準備完了です。ソファーに座ってください。
さあ、シミュレートするわよ!」
クラリスはなんだか楽しそうだ・・・。
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