八 捕虜救出

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八 捕虜救出

 グリーゼ歴、二八一五年、十二月十三日、二三〇〇時。  オリオン渦状腕最外縁部、アルギス星団ロレンツ星系、  惑星シュメナ南半球、ロレス帝国軍シュメナ軍事基地、ドック・アイン。 〈ホイヘンス〉のブリッジ外壁に張りついているポッドから、ポッドJが、ブリッジのメインコントロールユニットの球体AIモーザに精神思考を伝えた。  AIモーザはポッドJの助力で、〈ホイヘンス〉の全コントロールポッドをドック・アインから百キロメートル離れた礫砂漠の空間へ時空間スキップさせた。  本来、AIモーザは自艦体を亜空間スキップするが、他の物質を転送スキップできない。現在、AIモーザは単なる通信媒体でしかない。実質はポッドJが〈ホイヘンス〉のコントローラーである。  転送スキップした〈ホイヘンス〉のコントロールポッドは緊急脱出ポッドも兼ねている。飛行も可能だ。転送スキップ後、全ポッドは静かに礫砂漠に着陸し、その後、待機状態のまま動きはない。 『コントロールポッドに搭乗しているディノスを冬眠させたよ。  コントロールポッド内の温度を下げたんだよ』  ポッドJは笑いながら、〈ホイヘンス〉の艦体各ユニットと通路にイグアノンとラプトが居ないのを確認して、 『戦闘態勢をとれ!』  AIモーザに指示した。  AIモーザが答える。 『了解しました。  ゲート閉鎖完了。  ハッチ閉鎖完了。  隔壁を閉鎖完了。  艦体外殻シールド完了』  艦体の外殻隔壁が閉鎖され、ポッドJの機能によって、艦体が多重位相反転シールドに包まれた。時空間スキップと戦闘態勢である。 『スキップ戦闘態勢完了』 『ありがとう、モーザ。  惑星アギレスの惑星ラグランジュポイントへスキップしてね!』  ポッドJの指示で、戦艦〈ホイヘンス〉は、アルギス星系、惑星アギレスの惑星ラグランジュポイントへ時空間スキップした。  グリーゼ歴、二八一五年、十二月十四日、〇一〇〇時過ぎ。  オリオン渦状腕最外縁部、アルギス星団アルギス星系、  惑星アギレス、惑星アギレス惑星ラグランジュポイント。  やはり、シミュレートした作戦のように、ドック・アインから攻撃はなかった。 『なぜ、ディノスは攻撃しないんだ?戦艦〈ホイヘンス〉を奪ったんだぞ!  イグアノンとラプトに戦艦を只でくれるほど、ディノスは寛容か?』とジョー。 『ちがうよ!コントロールポッドにいるディノスは冬眠してるんだ。  連絡できないよ。 〈ホイヘンス〉の探査波でドック・アインの探査波を遮断して、建造中の〈ホイヘンス〉の映像を、シュメナ軍事基地へ送ってるよ。  ディノスは〈ホイヘンス〉がドック・アインにいると思ってるよ』とポッドJ。 『よくやった!ポッドJ!』とキティー。 『Jと呼んでね』 『了解、J!  サーシャ!惑星アルギスのイグアノンへ《救出成功》とレプティカを送れ!』とキティー。 『わかりました・・・』  そう答えてサーシャが戸惑っている。 『どうした?』 『反応がありません。通信が途絶えてます』とサーシャ。 『J。何があった?全機能で探査してくれ』  ジョーはJに指示した。 『4D映像探査するよ・・・。探査できないな・・・。  3D映像探査するよ・・・。  できたよ!』  コントロールポッド内に3D映像が現われた。アルギス星系の惑星アギレスに異変は無い。 『惑星アギレスのイグアノン共和国と通信できるか?』とジョー。 『4D映像回線はできないよ。妨害されてる。  3D映像回線なら、タイムラグはあるけど通信できるよ』 『どう言う事なの?』とキティー。 『妨害してるのはディノスじゃないみたい・・・』とJ。  4D映像探査を走査できるのはクラリスを除けば、ゴースト艦隊だけだ。ゴースト艦隊は何を考えてる? 『ゴースト艦隊が4D映像回線を妨害するなら、目的は何だと思う?』  ジョーはJを含めて全員に訊いた。 『それって、4D映像探査より高度な探査機能で妨害してるって事だよね・・・』  Jのアバターは腕組みした手を顎へ持ってゆき、考えこんでいる。Jは執事のようなベストスタイルだ。髪は短めの栗色の巻き毛で、とてもかわいい。 『イグアノンとラプトの同盟に、4D映像探査の高度な探査機能を持たせたくないんだ!  ロレス帝国と同盟の兵力と機能を同等にしておきたいんだね!』とJ。 『戦争を長引かせて、同盟と帝国の兵力を潰し合いさせる気だ!』  キティーが興奮しながら伝えた。 『サーシャは、イグアノン共和国政府へ戻れ。  兄のグラス・デル・イグアノン議員を通じて、イグアノンとラプトの同盟議会に、ロレス帝国のみならず、ゴースト艦隊の状況を伝えろ。  我々は艦隊を率いて、ゴースト艦隊を阻止する・・・』とジョー。 『私もゴースト艦隊阻止に参加します。  今さら、惑星アギレスに戻って、同盟軍とロレス帝国軍の交戦を見ているわけにはゆきません。  Jがコントロールしているこの〈ホイヘンス〉を使って、ディノスを倒さねばなりません』  サーシャの頭部で、後ろを向いたホーンのような突起に張りが出て、頭部の羽毛が七色に輝いている。思考が研ぎ澄まされて興奮している。 『それなら、3D映像通信回線で、兄に連絡して状況を伝えろ。  J。グラス・デル・イグアノン議員の居所に回線を繋げ!』  ジョーは意識思考探査で、一度言いだしたら後へは引かないサーシャの性格を承知している。 『オッケー。  グラス・デル・イグアノン議員は議会中だけど、回線を割りこませるね。  あたしの演出で、あたしとサーシャが議会に現われていいよね』  Jは個性が定まってうれしそうだ。 『ああ、いいぞ。  Jがコントロールして〈ホイヘンス〉を動かしたんだ。  Jの功績だぞ!』 『エヘヘッ、そう言われるとうれしいなあ。  意識がアップするよ・・・。  じゃあ、始めるよ・・・』  コントロールポッドの空間に、惑星アギレスの首都アルギランにある議事堂ラミンテル内の、イグアノン・ラプト同盟議会会場が現れた。  突如、ロレス帝国の抗戦状況に紛糾する同盟議会の議長席に、 金髪碧眼のテレス帝国軍警察重武装戦闘コンバットの若いカプラムの戦士(クラリスと同じ容貌と装備)のJと、サーシャの3D映像が現れた。二人共、会場の議員たちの二倍近い大きさだ。二人の出現で、喧噪の議会会場が一瞬に静まりかえった。 『私はポッダミア・ジェニフェスタ・クラリス・プロミダム、総司令官JCだ。  テレス星団のディノス政権を壊滅したヒューマだ。  サーシャ・デア・イグアノンの要請により、ディノスの最新鋭の戦艦〈ホイヘンス〉を奪い、惑星シュメナのイグアノンとラプトの捕虜を救出した』  Jが伝える間に、マッコーレ・フォン・ラプト議長が議長席をサーシャとJに譲った。  二人の3D映像は議長席に立って議員たちを見た。 『現在、戦艦〈ホイヘンス〉は惑星アギレスの静止軌道上にいる。 〈ホイヘンス〉をアルギラン軍事基地に着陸させる。  受け入れ態勢をとってくれ。  ゴースト艦隊の目的はこの宙域の占領だ。  同盟軍とロレス帝国を戦わせて、互いの戦力と戦意が衰退するのを待っている。  ゴースト艦隊と戦うために、ロレス帝国が、我が同盟軍に協力する事は有り得ない。  ロレス帝国を壊滅して、さらにゴースト艦隊を壊滅せねばならない。  テレス星団におけるディノス壊滅に関しては、サーシャ・デア・イグアノンの説明を聞け・・・』  Jの説明に続き、サーシャは、テレス星団におけるディノス壊滅とゴースト艦隊の戦略を説明する。 『〈ホイヘンス〉の亜空間探査ビームでロレス帝国軍施設の探査波を遮断し、全てのロレス帝国軍軍事施設が平穏である映像を送る。  ゴースト艦隊は、ドック・アインを内部から攻撃させるため、チャン准将が率いた艦体から戦意を奪うレプティカを4D映像探査波で送り、チャン准将たちをディノスの捕虜にして、ドック・アインに収容させた。  同じ手法をロレス帝国に下し、ロレス帝国軍のみならず、全てのディノスから戦意を奪う。  さらに、〈ホイヘンス〉を通じてロレス帝国軍施設の温度をディノスの冬眠域まで下げで冬眠させ、その間に同盟軍がロレス帝国軍の施設を攻撃する。  ディノスは夢を見たまま壊滅する。外来種の徹底駆除だ・・・。  私は今後も戦艦〈ホイヘンス〉で総司令官JCと行動を共にする』  サーシャがイグアノンとラプトス議員たちに戦略を伝え終えた。  Jはただちに〈ホイヘンス〉のAIモーザを通じて戦略を実行した。  惑星アギレスの静止軌道上にいる〈ホイヘンス〉は。ふたたびロレンツ星系へ時空間スキップした。圧倒的にロレス帝国軍が優性であるとの、偽のディノスのレプティカと、全軍事施設安泰な偽情報を、Jの4D映像探査波で搬送した。  その結果、ロレス帝国は臨戦態勢を維持したまま、完全に戦意を喪失した。  同盟軍はこの機を逃さずに、大艦隊・アルギス艦隊をロレンツ星系へスキップ(亜空間転移)して、ロレンツ星系の惑星ロレンツ、惑星シュメナ、惑星イショカンにあるロレス帝国軍を総攻撃した。  ロレス帝国は数時間で壊滅した。  グリーゼ歴、二八一五年、十二月十四日、〇六〇〇時過ぎ。  オリオン渦状腕最外縁部、アルギス星団ロレンツ星系、  惑星シュメナ、惑星シュメナ惑星ラグランジュポイント。 『帝国は壊滅しました。今後、〈ホイヘンス〉は、アルギス星団の名をとって、戦艦〈アルギス〉とします。  これまでのアルギス艦隊の旗艦〈アルギス〉に代わる新たな旗艦です。  アルギス艦隊総司令官はポッダミア・ジェニフェスタ・クラリス・プロミダムです。総司令官JCです・・・』  サーシャは〈ホイヘンス〉から、Jの3D映像通信でアルギス艦隊と惑星ロギレスのラプト共和国と惑星アギレスのイグアノン共和国へ伝えた。 『ただちに、アルギス艦隊はバーミン星系へ移動します。  亜空間スキップしなさい』  サーシャの指示で、アルギス艦隊はゴースト艦隊が留まるバーミン星系の惑星バーミアン近傍宙域へ亜空間スキップした。  同盟軍の艦船で時空間スキップできるの特殊シャトルと、新たな旗艦〈アルギス〉だけだ。
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