猛毒 一/致死率0%

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いつぞやか、誰かが彼を王子様みたいだって言っていた。 「誰にも見せたくないなぁ。」 「氷雨?」 小さく声を漏らした彼が、私の一言で目を見開かせた。 「……氷雨?」 「あっ…ひー君。」 いけない。 約束を破ってしまった。 慌てて手で口を覆いながら言い直す。 「いけない子だね、日鞠。」 「ごめんなさい。」 「日鞠“だけ”は僕の事をひー君って呼ぶって約束でしょう?」 「…うん。」 口許は緩んでいるけれど、ひー君の瞳は氷のように冷たく見える。 声だって、今はいつもより冷たくて温度がない。 「お仕置きだね。」 「え…ごめんなさいお仕置きは…「僕の言う事が聞けないの?」」 遮られた言葉に、私の口が完全に固く結ばれる。 何も言えない。 ひー君に逆らっては駄目。 理由とか、根拠とか、そういう物はよく分からないけれど、とにかく口を開いてはいけないのだと脳が信号を出してくる。 長年の間に刷り込まれた、癖というか習慣というか。そういう類の物だ。 「お母さん達、僕と日鞠は少し部屋に行ってるね。」 リビングに響く彼の声に、談笑を一時中断させた二人がひらひらと手を振った。 「行ってらっしゃい。」 「仲が良くて嬉しいわ。」 見送られて、ひー君に手を引かれるまま連れて来られたのは私の自室。 躊躇なく扉を開いたひー君は、すぐさまそれに施錠した。
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