猛毒 一/致死率0%

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苦痛からか、目から溢れた涙が私の頬に落ちる。 「ああ、たまらない。可愛い。」 「ゲホッゲホッ…。」 ここで漸く苦しみから解放され、反射的に咽る私は咳を繰り返しながら酸素を体内に取り込む。 そんな私の背中をよしよしと撫でながら、片手で強引に頬を挟んで持ち上げたひー君は、花が咲いたように顔を崩した。 「日鞠の事を理解しているのは僕だけだよ。」 「…うん。」 知ってる。 私を分かってくれるのはひー君だけ。 そう教えてくれたのはひー君だ。 「来週から高校生だけど、僕の言いつけ、守れるね?」 「うん。」 「いい子。」 私の頬に落ちた涙が、熱い舌によって舐められる。 「日鞠は涙も美味しいね。」 「……ひー君くすぐったいよ。」 「ふふっ、日鞠の事食べたくなってきた。」 「え…駄目だよ下にママ達が…んんっ…んっ…。」 強引に奪われた唇は、自然と侵入を試みる彼の下を受け入れる。 教えられたから。 こういう時は、口を開いて受け入れるんだって。 そうしたら、ひー君はいつも喜んでくれるから。 ぐちゃぐちゃに口内を掻き乱され、混じりあった互いの唾液が一本の糸になり僅かに離れた唇を繋ぐ。 「やっぱり美味しいね、日鞠は。」 艶笑を湛えたひー君は、教会に描かれている天使のように儚くて、それでいて美しい。 彼の名前は久遠 氷雨(くおん ひさめ)。
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