【序章】地方ニュースと評論家 In1996

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「こんな卑劣な通り魔殺人事件は聞いたことがありませんね」  キャスターの隣で無愛想に聞いていたゲストの女性コメンテーターが吐き捨てるようにコメントをした。元々辛口で歯に衣着せぬ物言いが売りのキャラクターではあるが、殺人事件などの凶悪犯罪になると、一際声を大きくして持論を広げる傾向にある。 「こんな犯罪者が大手を振って歩ける世の中は腐っています。警察は何をしているんですかね。公務員として国民の血税で生活しているくせに、国民が血を流しても平気なんでしょうか」  司会を務めるキャスターやその場にいる全員は、苦笑いを浮かべるより他なかった。 「なかなか目撃者も見つからず、捜査は難航しているようですね」 「そんなものはただの警察の方便ですよ」  女性コメンテーターは、薄ら笑いを浮かべながら反論を口にした。 「そもそもこれだけの数の事件を繰り返しながら、犯人の糸口すら見つけられない。職務怠慢以外の何があるというのでしょう。犯人に好きなようにやられて、警察の威信はどこにいったというのですか?」 「まあまあ、望月(もちづき)さん。そういった想いは次の選挙戦でご鞭撻をいただくことにして、話を進めませんか。そんなにこの事件に噛みついてばかりいると、あなたも標的になってしまうかもしれませんよ」  同じくゲスト出演している政治・経済評論家のプレートを掲げた初老の男性がやんわりと牽制する。しかし、望月と呼ばれた女性はそんなの関係ない、と男の発言を一蹴した。
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