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「源田さん、ここは東京ですよ。この事件が連続して起きている場所は全て岐阜県です。犯人はその小さな箱の中でしか強がれない弱い人間なのです。そんなもの怖くもなんともありませんわ」
鼻息荒く息巻いた望月の発言に、初老の男性――源田はにんまりと笑みを浮かべた。
「いやあ、あんたが気にしなければいけないのは、確かに犯人なんぞより、自分自身の発言のようだ」
「あなた、何を言って……あっ」
源田の下卑た笑みの意味をようやく理解をした望月は、両手で口を抑えた。
「いやいや、口を抑えてどうするつもりですかな。今しがた望月さんが発言した、それはそれは光栄なお言葉は、口の中にはもうありませんよ。それは今、ピンマイクとカメラを通して、視聴者の皆さま方の耳の中、ひいては心の中にね」
「いえ、これは……その……」
言葉に窮した望月は、軽く頭を下げ、「不適切な発言、申し訳ありませんでした」と謝罪を入れた後は、無言を決め込んだ。それが、不正解の対応であることなど、彼女もわかっていた。それでもこれ以上心証を悪くするよりはマシだと考えての無言だった。
「それでは気を取り直して参りましょう」
司会のキャスターは、苦笑いを浮かべながら、改めて原稿を覗く。
「東京にも桜の開花宣言が発表されました――」
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