30人が本棚に入れています
本棚に追加
【一章】彼氏と彼女 In1993 ①
僕は緊張しながら向かいの席に座る彼女――鈴原清美と会話を続けていた。もしかしたら、彼女にもこの緊張が伝わっているかもしれないけれど、そんなことを気にする余裕を持ち合わせてはいなかった。
「健人……今日はどこか上の空だね」
清美は心配そうに僕の顔を覗き込む。僕は目を逸らしながら、平気だよ、と否定するが彼女にそんな見え透いた嘘が通用するはずもない。
「ま、別にいいんだけどね」
ジュースのストローをくるくると指で遊びながら、清美はため息を吐いた。
僕たちは喫茶店で暫しの休憩をとっていた。大学四年生の時に付き合いを始めたので、もう三年の月日が流れていたが、会うのはおよそ三ヶ月ぶりとなる。大学を卒業した僕らは、それぞれ社会人と大学院生という肩書きを持ち、互いの道を歩んだことで、会える回数も極端に減っていった。忙しさにかまけて、お互いすれ違いの日々が続いてしまったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!