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「……まだ仕事は忙しいの?」
「まあ、そうだね。やっぱり働くって大変なことだったんだって実感してるよ。まだ三年前だけど、大学生の頃がひどく懐かしいもん」
僕は苦笑いを浮かべながら、窓の外を眺める。
休日の土曜日ともあって外は活気ある賑わいをみせていた。親子連れやカップルが手を繋いで歩いている姿が僕の視線にやたらと入るのは、僕の気にしすぎだろうか。
「清美は? 研究は上手くいってるの?」
「まあまあよ。まだ見習いに毛が生えた程度だからね。師匠について、いろんなところを飛び回っている。だけど、すごい充実しているのは確か」
「そうか、それはよかった」
「でもおかげで、本を読む時間はかなりなくなったけど」
清美は申し訳なさそうに笑った。
僕と彼女はそれぞれ工学科と生物科を専攻し、キャンパスライフの醍醐味とも言えるサークルにも未加入だった。そんな僕らを繋ぎあわせたのは、読書という何の変哲もない、お互いの趣味だった。
ただ、それすらも覚束無い今、僕は彼女を繋ぎ止める資格は果たしてあるのだろうか。
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