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その日もいつもと変わらない定刻にウッドベルの戸を開けた僕はすぐに店内の違和感にすぐ気が付いた。
僕の指定席に目をやると一人の女性が座っているではないか。顔は書籍で隠れているが、眼鏡のフレームが確認できる。髪は肩にかからない程度の短さで、艶やかな黒髪だった。年齢は高校生にも大学生にも判別できるが、どちらにしてもこの店には珍しく僕と変わらないくらいに若く、奇しくも読書のスタイルまで瓜二つだった。
僕の来店に気づいたオーナーは掌をあわせ、ごめん、と小さく呟いた。オーナーの話によると、彼女は僕が来店しない火曜日と木曜日に僕の席で同じように読書を勤しんでいる、言わば同じ穴の狢だとのことだ。しかし、明日はどうしても外せない用事があるらしく、急遽予定を変更して水曜日の今日、来店したらしい。いくら常連とはいえ、元々席に予約制のシステムは存在しておらず、たまたまよく使う席が、その日も空いていたので座ってしまったと言うのだ。
僕はそれを聞いて心底腹が立った。
彼女も自分が通う曜日の時に席が埋まっていれば、文句も言わず他の席に座るらしいが、正直なところ、だからなんだ、という話だ。
人付き合いが苦手な僕の唯一と言っていい至福のひとときを邪魔されたのだから、許されるものではなかった。
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