【一章】彼氏と彼女 In1993 ①

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【一章】彼氏と彼女 In1993 ①

 僕は緊張しながら向かいの席に座る彼女――鈴原(すずはら)清美(きよみ)と会話を続けていた。もしかしたら、彼女にもこの緊張が伝わっているかもしれないけれど、そんなことを気にする余裕を持ち合わせてはいなかった。 「健人(けんと)……今日はどこか上の空だね」  清美は心配そうに僕の顔を覗き込む。僕は目を逸らしながら、平気だよ、と否定するが彼女にそんな見え透いた嘘が通用するはずもない。 「ま、別にいいんだけどね」  ジュースのストローをくるくると指で遊びながら、清美はため息を吐いた。  僕たちは喫茶店で暫しの休憩をとっていた。大学四年生の時に付き合いを始めたので、もう三年の月日が流れていたが、会うのはおよそ三ヶ月ぶりとなる。大学を卒業した僕らは、それぞれ社会人と大学院生という肩書きを持ち、互いの道を歩んだことで、会える回数も極端に減っていった。忙しさにかまけて、お互いすれ違いの日々が続いてしまったのだ。
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