花芽

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「すごいな涼太郎君は…本当に一人で行ったのか。」 昔涼ちゃんが教えてくれた屋敷の大山桜の下で、亮司さんはポツリと呟いた。 「僕なんてαという性別に甘えて親の敷いたレールの上を歩いているだけだ…正直、負けたなと思ったよ。」 枝の先には色の変わり始めた葉が付いている。もうすぐ枯葉として地に落ちて、丸裸になるだろう。そして再び蕾をつけて花開くだろう。その時、涼ちゃんは僕の側にはいない。涼ちゃんがイギリスから帰るより先に僕は高校を卒業して、亮司さんと結婚する。 もうきっと、涼ちゃんと桜の花を見ることはない。 「大樹君は、大学に行くのかい?」 「いえ、僕は…」 「なんだ、折角名門大学にも入れる成績なのに。…まぁ、現役で行かなければならないものでもないし、その気になったら行くといい。楽しいよ。」 真っ白い歯を見せて亮司さんは笑った。 僕は大学に行くつもりがなかった。 亮司さんの側にいればいただけ、彼に惹かれて行く気がした。亮司さんなら、いつか涼ちゃんを忘れさせてくれると思った。 それが惨めな悪足掻きだと、僕は気付いていなかった。 そうして日々は過ぎ去り、涼ちゃんがいない2度目の開花の時期に僕は高校を卒業した。
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