枝分

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僕も亮司さんも、まだ高校生だった。 会うのは週末に一回。亮司さんが必ず手土産を持って会いにきてくれていた。僕らはそれを一緒に食べながら他愛のない話をしてゆっくりと時間を過ごす。亮司さんはとても優しくて、そしてαらしくとても優秀だった。僕はあまり勉強が得意ではなかったけれど、それを知った亮司さんが教えてくれるようになって成績はぐんぐん伸びて行った。 そうして1年が過ぎて、僕は涼ちゃんと出会ったソメイヨシノの下で大学生になった亮司さんとお花見をした。僕は成長するにつれて、いろんなことを知るにつれて、僕の婚約者が亮司さんで良かったと思えるようになっていた。 望まぬ結婚を強いられたり、それどころか望まぬ番関係を強いられたり、そういうことがΩにはよくあると知った。どうしようもない発情期のせいでまともな職にも就けず、αに飼われ粗暴に扱われることも珍しくないことを知った。 亮司さんは、僕の意思を尊重してくれるだろう。 そしてとても大切にしてくれるだろう。 亮司さんの両親がなぜ僕を選んでくれたのかはわからないけれど、僕の両親がなぜ亮司さんを選んだのかは分かる気がした。 じゃあまた、と手を振って帰って行った亮司さんの背中が見えなくなると、僕は足取り軽く自室に戻り窓を開け放つ。小さな黒い頭がひとつ。僕は毎回、こうして最後の見送りをする。 亮司さんと会うのは楽しみだった。彼と一緒にいれば、いつか恋に発展する気がして。 「最近、楽しそうですね。」 「わっ!?なんだ、涼ちゃん…もう!ノックしてよ!」 「しましたよ。声もかけました。」 涼ちゃんは心なしか低い声でそういうと、お茶の準備をし始めた。 カチャカチャと陶器が鳴る。いつも聞くはずのその音がなぜか今日に限って耳障りで、僕は思わず眉を(ひそ)めた。
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