太陽が知っている

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太陽が知っている

        ・・・・・・・・・・               ・・・・・・・・・・  「ほら、あの浜辺、憶えているかい?」 「憶えているわ。去年の夏の夜、あなたち達が騒いていた浜辺」 「僕たちの熱い出会いの始りの浜辺さ。それがこんな乾いた風景になるなんてなあ。でも、あのときと同じだ。加納瑠梨が今も立ちはだかっている」 「勝負するといっても、あの女には叶わないかもしれない。あるとすれば一つだけかもしれない。やはり、あなたがわたしを殺したということにして、その証拠になるような物を、あの二人の前に曝すのよ。加納瑠梨の命令で殺めたと父、いえ、あの雄平さんに言うのよ。これで、雄平さんは、あの女の怖さを知ることになる」 「いや、それも駄目だと思う。結局、あの女に言いくるめられるだけのことだよ」 「ああ・・・・、暑いわ。太陽がギラギラと燃えている。こんなに乾いた夏は始めてだわ。いっそのこと、あの太陽の熱で燃え尽きて仕舞いたい」 「あの女にはこの暑い夏の夜に酒でも飲んでもらい、あの海で溺れてもらうことしかないような気がする。それとも、この近くの人影のないプールサイドからサングラスをかけた僕があの女を水面に突き落とす、頭を押さえて水に沈めて窒息させるとか…。もちろん夜に」 「まさか"太陽が知っている"というフランス映画のアラン・ドロンの真似っていうこと?そんなこと、あなたにはやって欲しくはない。雄平さんは、いずれ衰弱して死んでしまうんだわ。あの女の目論見通りになるのよ。それでこの世が治まるとでも思っているのだわ。そんなことなら、わたしは、いっそのこと雄平さんの女になっても構わない、そんな気持ちにもなるのよ。愛にも革命が必要なのかもしれないってね」 「出し抜けに、なにを言うだよ。そんなことは僕が許さない。君は僕のものだ」 「何ですって?」 「結局、僕と君とが一緒になるために、加納瑠梨という女が僕たちの前に現れたのかもしれないじゃないか。それで良いじゃないのか?そう考えれば、あの女は幸せの女神ということになるんだ。財産なんて、そんなものは在るようで無いようなものだし、在ると縛られるし、負担も増えるし、気持ちが自由ではなくなる。それより、二人で新しい世界を創っていこうよ」 「女神か…、女神って、(いにしえ)より二つの顔を持っていると言われるわよね。生命を生み、奪うという二面性。あの女は、わたしたちを幸せに導く女神でもあった。そういうことなのかなあ。・・・・なんか、気持ちが晴ればれして来そう。・・・・乾杯しましょうか」 「そうだよ。乾杯しようよ。これこそが僕たちの勝利宣言なのだよ」  そのときだった。河村哲也のスマホにメールが届いた。 「加納瑠梨からだ。君を一刻も早く始末しろと言っている。じゃ、始末したと返信しておくよ。これで、僕たちはここからおさらばだ。このスマホは解約だ」 「そうね。おさらばだわ、さあ、行きましょう。・・・・あれ、誰かしら?」  遠くから、やせ気味の女が険しい表情で二人の方に向かって歩いて来ていた。
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