白幸が舞う

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もう二度と動くことのないゆきを目の前にして、涙が溢れて止まりません。 何度拭ってもすぐに視界が滲んで、もうどこを見ているのかもわからなくなっていました。 すると突然、風が出てきたのか急に窓がガタガタと揺れはじめたのです。 驚いて顔を上げると、そこにはまた驚きの光景が広がっていました。 限りなく白に近い、淡くピンクに染まった花びらが、風に乗って空高く舞い上がっていたのです。 いくら最近の気温が高かったとはいえ、ここ一帯の桜が満開に咲くのはまだ少し先の話です。 これだけの量の花びらが舞うほど、一体どこに咲いていたのでしょうか。 この花びらたちは一体どこから運ばれてきたのでしょうか。 庭先には小さな花壇しかありませんし、近くに花畑の様な場所も心当たりがありません。 ヒラヒラと踊るようにして舞う花びらが、沈みはじめた日の光に当たってキラキラと輝いています。 思わず窓を開けると、この時期にしてはあり得ないほど暖かく優しい風が私の頬を撫でました。 そして花びらと一緒に風に乗って、ゆきの鳴き声が聞こえてきたような気がしました。 いえ、間違いありません。 私がゆきの声を聞き間違えるはずも、聞き逃すはずもありません。 なんて言っているのかはやっぱりわかりませんけれど、「泣かないで」のようにも、「ありがとう」のようにも聞こえました。 悲しみで溢れていた涙はいつの間にか止まって、きっとこれは雪の妖精がゆきを迎えに来てくれたのかもしれないと、少し嬉しくなりました。 本当にゆきは妖精の落としものだったのかもしれません。 だってあんなに綺麗で優しい猫だったんですから。 きっとこの風に乗って在るべきところへ帰っていくのでしょう。 これから向かう場所にゆきが一人ぼっちではないのなら、安心です。 私の大切な家族ですから、寂しい思いはしてほしくありません。 ありったけの感謝の気持ちを込めて、白い毛並みを何度も撫でました。 ゆきの旅立つ世界が優しく幸せに満ちた世界でありますようにと、願いながら。
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