白幸が舞う

2/8
前へ
/8ページ
次へ
小さい頃から、ずっと一緒でした。 物心つく前からなので覚えていませんが、初めて寝返りを打てたとき、初めて立って歩いたとき、となりにはいつもゆきがいたそうです。 ピカピカのランドセルを背負った姿を一番に見せたのも、真新しい制服にドキドキしながら袖を通したときも、そばにはいつもゆきがいました。 両親と一緒に、一番近くで私の成長を見守り続けてくれた、お姉ちゃんのような存在です。 そんなゆきがもう長くはないかもしれないと、母から連絡が入ったのは一週間前のことでした。 すぐにでも飛んで帰りたい気持ちを抑えて、少しでも長く実家に帰れるように仕事を詰め込んで、やっと三日間の休みをもらって帰ることができたのです。 「ただいまー」 「おかえり」 実家に帰省すること自体が約一年ぶりだというのに、母との挨拶もそこそこに、白い毛並みを探します。 「ゆきは?」 「いつものところ。でも寝てるわ」 母が指さした方向を辿ると、リビングにあるこたつテーブルの近くにクッションがおいてあります。 これは母がゆきのために作ったもので、ゆきもたいへん気に入って、家の中でここがゆきの定位置になりました。 「ゆき、ただいま」 起こさないように静かに近づいて、クッションの上で丸まった白い毛並みに触れます。 手のひらに伝わる温もりとゆっくりと上下するお腹を見て、ひとまずホッとしました。 まだゆきはここにいると、胸をなで下ろしました。 「もう起きてる時間より寝てる時間の方が長くて、一日のほとんど、その上にいるわね」 同じ年に生まれたゆきと一緒に、同じ時間を過ごしてきたと思っていました。 でも私が思うよりもずっと早くゆきの時間は流れていたんだと、今更ながら気付きました。 ゆきは一ヶ月前に二十歳を迎えました。 もうかなりのおばあちゃん猫です。 年を重ねれば体のあちこちが衰えはじめるのは、人も猫も同じで、数年前から少しずつゆきの変化を感じてはいました。 しかし今まで病気知らずで生きてきたゆきなので、まだまだ長生きしてくれるだろうと思っていたのですが、ここ最近ほとんどご飯を食べなくなったゆきを心配して母が病院に連れて行ったところ、原因は老衰だろうと言われたそうです。 猫の平均寿命をとっくに追い越しているので、当然でしょう。 わかってはいても、来てほしくない時が近づいていることに胸が痛みます。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加