白幸が舞う

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鼻の奥がツンとして目に熱が集まりはじめたとき、ゆきのまぶたがゆっくりと開きました。 「起こしちゃったかな。ゆき、おはよう」 目が合ったゆきの頭を優しく撫でてあげると、目を細めて鳴きました。 その声は少しか細くはなりましたが、小さい頃から聞き慣れたゆきの鳴き声でした。 私が家に帰ると必ず玄関まで迎えにきて、おかえりと言うように鳴いていたことを思い出しました。 「お昼できたよ。ゆきもご飯にしましょうね」 その母の言葉を理解したように、ゆきはゆっくりと立ち上がりました。 太陽が一番高い場所にくる時間帯は、南向きの窓辺にたくさんの日の光が降り注ぎます。 いくら天気が良くても風はまだまだ冷たいですが、この窓辺は日の光が集まるおかげで、一足早く春を迎えたようにポカポカと暖かい場所になります。 「あ、ゆきが移動してる」 さっきまでテーブルの近くにあったクッションを、きっと母が動かしたのでしょう。 日だまりに包まれるクッションの上に、ゆきが背中を丸めて気持ちよさそうに瞳を閉じています。 全身で日の光を浴びているゆきは、本当に綺麗でした。 いつだったか、母が「ゆきを初めて見たとき、雪の妖精の落としものかと思った」と話していたのを思い出しました。 ゆきが生まれたのは私より三ヶ月早い、シンシンと雪の降り続く一月の夜でした。 私の実家があるこの地域はあまり雪が積もることはないのですが、その日は朝から形がはっきり見えるほど大きな結晶が固まりとなって、静かに降り積もっていました。 まるで、雪の妖精のいたずらかと思えるほどに。 そんな寒い冬の夜に、母の古い友人の家で生まれた子猫の写真を、その友人はすぐに母に送ってきたそうです。 そのなかの一匹が、ゆきでした。 他の兄弟たちは体のどこかしらに母猫の名残を持っていましたが、ゆきは生まれたときから真っ白でした。 父猫の遺伝子かと思いきや、聞けば父猫は真逆の黒だそうで。 ますます何故こんな白が生まれたのか不思議でなりませんでしたが、母は一目見たときからその白い小さな命に心を奪われてしまったそうです。
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