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それから一ヶ月、必死に父を説得してこの家にゆきを迎えることになりました。
母が私を授かったのは、母が四十になる年でした。
半ば諦めかけていた子供ができたことに、父も母も心底嬉しかったと話してくれたことがありました。
そしてゆきを見たとき、母は思ったそうです。
きっとお腹の子に兄弟を作ってあげることはできないだろう。
けれど、この子がいれば寂しい思いをしなくて済むのではないか。
この子がこれから生まれてくる子供の味方になってくれたら、支えになってくれたら。
そう言って、父を根気強く説得したそうです。
動物が苦手な父ですが、最後には母の熱意に押されて首を縦に振るしかなかったようです。
そんな父も、今となってはゆきを我が子のように溺愛しています。
「雪」の妖精の落としものがきっと私たち家族に「幸」せをもたらしてくれるだろう。
こうして「ゆき」と名付けられた猫は、両親の思いの通りに、私のとなりに寄り添い、優しく見守り続けてくれる温かくて大切な存在になりました。
「ゆきのこの毛色はずっと変わらないね」
光を反射するようにキラキラと輝いて見えるその毛色は、小さい頃から変わっていません。
ただ、背中を撫でるたびに感じる硬い感触と見るからにやせ細ってしまった体を前に、悲しみが心に雫を落とします。
「そういえば、ここでよく一緒に本読んだよね」
猫が字を読めるはずがないので、正しくは本を読んでいたのは私だけですが、この窓辺で本を読んでいるときもそばにはゆきがいたことを思い出しました。
学校の図書室から借りてきた本を、休みの日によくここで読んだりしていたのです。
「懐かしいな~。久しく本も読んでないな」
仕事の忙しさに追われて、本を手に取ることすらなくなっていることに気付きました。
「時間あるし、何か読もうかな」
思い立って自分の部屋に向かい本棚を眺めてみると、ある背表紙に目が留まりました。
それは、私が初めて買った本でした。
裏表紙に描かれている白い猫が重要なキャラとして登場する物語です。
何だかゆきみたいだなと、惹かれて買った本でした。
「よし、これにしよう」
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