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それからどれだけの時間が経ったのか。
気付けば私は、本を片手に眠ってしまっていたようでした。
ぼやけた視界がゆっくりとものを映しだして、徐々に思考も追いついていきます。
「あー、寝落ちしちゃった。背中が痛いな」
起きあがって背伸びをして意識がはっきりすると、何だか長い長い夢を見ていたような気がしました。
どんな夢だったのかまでは思い出せないけれど、懐かしいような温かく優しい夢だったことは間違いありません。
そして、となりにはずっと白い猫が、ゆきがいました。
それだけは唯一、はっきりと覚えています。
ふとテレビの近くにある時計に目が留まり、母が出かけてから二時間ほどが経っていました。
物音がしないということは、まだ母は帰ってきていないのでしょう。
外はまだ明るいですが、もうだんだんと日が沈みはじめる時間になります。
足元のクッションを見ると、きっと一ミリも動いてはいないであろう白い毛並みが、丸いままでそこにいました。
「ゆきー、いつまで寝てるのかな」
しゃがんで、キラキラ輝くようなその毛並みに触れます。
触れて、そして、気付きました。
たくさん太陽の光を浴びていたはずです。
日没まで時間があるので、今いる窓辺はまだ温かいままです。
それなのに、ゆきの体は冷たくなっていました。
「ゆき、ゆき、嘘でしょ・・・ゆき」
何度呼んでも、その目が開くことはありませんでした。
前足を掴んで動かしてみても、離してしまえば力無くクッションへと沈んでいくだけでした。
ほんの数時間前まで美味しそうにご飯を食べていました。
かまってほしそうにすり寄ってきたり、話しかけるとその言葉を理解して返事をするかのように鳴いていました。
辛くて苦しくて私が部屋で泣いているとき、ただ静かにそばにいてくれました。
嬉しいことや良いことがあったときは、ゆきも一緒に笑ってくれていたような気がします。
そんなゆきが、ずっと私の味方でいてくれた、私を支えてくれていたゆきが。
いなくなってしまいました。
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