捨てられないカップ

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 勤めている会社で、ミスをした。寝る時間も食事の時間も削ってリカバリに追われて、疲れていたんだと思う。 「ホットの、カフェラテ下さい、テイクアウトで」  今の気持ちと同じ、どんよりとした曇り空の下で、初めて入ったオシャレなカフェ。普段スーパーやコンビニの紙パックでしか飲まなかったものを、先に注文していた人の真似で注文した。 「サイズはいかがなさいますか?」 「え、あ、し、ショート、で……」 「かしこまりました。480円です」  若い男性店員は、某ファストフード店に負けない太陽のような笑顔を見せてレジスターのボタンをタッチしている。モタモタしながら小銭をカルトンに出してる間も、決して表情は変わらなかった。コーヒーマシンの前でカフェラテをカップに注ぐ女性店員も、優しい目をしていた。  初めてでも、怖くない。ちゃんと通じた。レシートを受け取って大きく息を吐くと、 「お姉さん、お仕事大変そうですね」 「へっ?」 突然頭上から優しい声が落ちてきた。 「あ、すみません。でも、顔色悪そうだったから……まるで今日の天気みたい」 「えと、あの、その……ダイジョブ、です……」  どう返していいか分からず、口篭りながら何とか答えると、カフェラテのカップを手にした女性店員が男性店員の頭をはたいた。 「こらっ、ハルトったら、また口説いて……すみませんお客様、お気になさらず」 「ったぁ……酷いなぁミカちゃん」  ハルトと呼ばれた男性店員はカップに何やらマジックで書いて、手渡しされる。 「お待たせしました、カフェラテです」 「あ……り、がとうございます……」  カップを両手で受け取ると、ハルトは更に笑みを浮かべてそっと手を離してくれた。 「無理しないで、お仕事頑張って下さいね。ありがとうございました!」  店が混んでいないと、こんなに話しかけられるんだ……最初は怖かったけど、店を出てからカップを見て、明日も行こうと決めた。飲み終わったカップは、捨てずに置いておこう。 【明日は晴れマークのお姉さんが見られますように^-^】 End
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