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湖のキリギリス
きんもくせいのキリギリスは驚きを隠せないようだ。声を上ずられせたままアジサイのキリギリスに詰め寄った。
「それは、本当なのか!?」
「残念だけど…本当のことだよ」
僕も信じられない気持ちでいっぱいだ。あれほどの音楽家なら、どこのアリでも欲しがるだろう。それとも冬越しの際にケンカでもしてしまったのだろうか。
カエル岩のキリギリスも、演奏をやめたままアジサイのキリギリスを眺めていた。
「一体どういうことだ?」
「遺体は、枯れ葉の中に隠れていたらしい。
今朝、うちのアリたちが見つけてさ…ファミリー全体が大騒ぎさ」
「枯れ葉ってことは、外で冬越ししようと思ったってことだよな?」
きんもくせいのキリギリスは同意を求めるように僕を見た。その通りだと思うので頷いて返事をすると、僕ときんもくせいのキリギリスはアジサイのキリギリスに視線を戻した。
「亡くなった場所は、アジサイの近くということか」
「そうだ。彼ほどの腕があるのなら…うちのアリたちも受け入れてくれただろうに…」
アジサイのキリギリスは後の言葉を飲み込むと、静かに演奏を始めた。
まるでその音色はレクイエムのような響きだった。
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