湖のキリギリス

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 しばらく演奏が続くと、カエル岩のキリギリスは唸るようにつぶやいた。 「そっちにも姿を現さなかったんだろ?」 「…ああ」 「うちにも来ていないってことは…そもそもアリ相手に自分の腕を披露しなかったってことか?」  僕は再びきんもくせいのキリギリスを見た。彼も心当たりがないようだ。  カスガの地にアリのコロニーは4か所しかない。誰も知らないということは、そもそも湖のキリギリスは営業そのものをしなかったということになる。  カエル岩のキリギリスは理解できない様子だ。 「別に1つのファミリーに1人なんて決まりはないぜ」 「ああ、むしろ…それぞれが1人ずつだとなると、どのファミリーも2人目が欲しくなるはずさ」  きんもくせいのキリギリスが指を2本立てると、他の3人がその通りと言わんばかりに頷いた。演奏家が2人いれば様々な演奏ができる。  アジサイのキリギリスは演奏を止めた。 「まさか、夏の間に歌いたい歌は全て歌い切ったとでも?」 「え!?」という声と共に、きんもくせいとカエル岩のキリギリスは首を横に振った。 「そりゃ、無いだろ…!」 「僕も同感だ。あいつは命ある限り歌いきる類の演奏家だ。たとえ真冬でも演奏をやめないって冗談もあったくらいだ」     
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