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そう。実際に湖のキリギリスはそういう演奏家だった。彼がそう呼ばれるのは、いつでも湖の近くにいたからだ。あの場所は様々な動物が訪れるので危険も伴うが、羽音が最も美しく響く場所でもあり、湖のキリギリスは命を賭して秋の終わりまで演奏を続けていた。
カエル岩のキリギリスは難しい顔をしたまま頭を掻いた。
「ますますわからねえ。近くのアリに頭さえ下げれば、暖かいところで寝れるじゃねーか。またお気に入りの水辺で心行くまで演奏できるって思うものだろ?」
「ああ、アリたちに営業をかけて駄目だったのならわかるが…」
アジサイのキリギリスもカエル岩と同じ意見のようだ。
「もしかし…」
きんもくせいのキリギリスは、何かを言いかけたがすぐに耳を動かした。そういえば、かさかさと物音が聞こえる。嫌な感じがする。
「みんな、逃げろ!」
声と共に、僕とアジサイのキリギリスは後ろ足で強く地面を蹴った。その直後に黒い無数の足を持つ生き物が僕のいた場所に突っ込んだ。
『蜘蛛だ!』
こうなってしまうと勉強会は中止だ。僕は大急ぎで護衛のアリたちの場所に戻ると、きんもくせい、カエル岩のキリギリスも既に姿を消していた。
蜘蛛は強靭な足で僕を追う。僕もアリたちと共にその場から撤収すると、やがて蜘蛛は追撃を諦めたようだ。
「地蜘蛛でしたか。本当に油断できませんね」
兵アリは周囲を見回しながら言った。僕も頷きながらアリの巣穴へと戻る。
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