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兵アリは険しい表情のまま言った。
「人間は私たちの行動を知り尽くしていますからね。噂では、気づきにくい毒餌を作り、コロニーに運び込んだ後に毒となって我々の身体をむしばむモノもあるとか…」
全く、人間とは恐ろしい生き物だ。何がきっかけとなって彼らの逆鱗に触れるかわからない以上、僕らでは神に祈る他ない。
『とにかく、よく無事でしたね』
そう言うと、女性キリギリスは「はい」とだけ答えた。
やがて兵アリが一礼して去ると、女性キリギリスは僕を見た。
「そういえば、湖殿はどこにいらっしゃるかわかりませんか?」
その質問に僕は息を詰まらせた。彼はもうこの世にはいない。
いずれ誰かが知るのだから、とぼけるわけにもいかないのだが、こうして面と向かって言うにはちゅうちょしてしまう。
『彼は、冬越しに…失敗した…ようです』
彼女は湖のキリギリスの音色に憧れていた。泣かれるだろうか。それとも逆上してしまうだろうか。
恐る恐る顔色を伺うと、取り乱す様子はなく「そうですか…」と落胆した様子で答えた。
少し間を置くと、女性キリギリスはこちらを見た。
「どのような…最期だったのですか?」
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