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『枯れ葉の中に身を隠し、そのまま息絶えていたと…アジサイ近くのアリたちが言っていました』
女性キリギリスは目を潤ませた。
「あの方、最期まで…キリギリスであることを…貫いたの…ですね」
彼女は声を押し殺して静かに涙を流した。こういう時にどう言葉をかければいいのだろう。考えたが、僕はただ見守ることしかできなかった。
しばらく泣くと、女性キリギリスは涙を拭いてこちらを見た。
「教えていただき…ありがとうございます」
胸中で僕は大いに迷った。
彼女なら湖のキリギリスがどうして独りで冬を越そうとしたのか、事情を知っている可能性は高い。しかし、プライベートなことに首を突っ込んでもいいのだろうか。
僕個人としては湖のキリギリスと親しかったわけではない。ただ、あの音色はとても素晴らしかった。僕にとってもあれは憧れだったんだ。
そう思った時、ある考えが脳裏に浮かんだ。
――あれほどの音色を持つキリギリスとは、もう二度と会えない
僕は意を決した。
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