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僕もアリの住み家の出入り口に立つと、ゆっくりと演奏を始めた。すると、演奏者の何人かがこちらに身体を向けたようだ。音色が変わり僕を意識していることがうかがえる。
そうか、きんもくせい、アジサイ、カエル岩のキリギリスたちも無事に冬を越せたようだ。一番演奏力のある湖のキリギリスの演奏が聞こえないのは気がかりだが、まだ冬眠から目覚めていないのかもしれない。
因みに、僕らは住んでいる地域で呼ばれることが多い。例えば僕は楓の葉と言われているが、これはアリのコロニーが紅葉の近くにあるためだ。
これだけ多くの同業者が生きているのなら、次に満月の夜に勉強会も行われるだろう。
翌日、僕は女王アリに言った。
『次の満月の夜、勉強会に出席します』
「なるほどのう。勉強してくるがいい。ああ…あと、それまでの間は、ここで他のキリギリスたちに負けぬよう、しっかり演奏するのじゃぞ」
『承知しました』
僕らキリギリスが演奏の腕を競うように、アリたちもまた有能な演奏家を召し抱えていることを一種のステイタスにしているようだ。
この日も巣穴の入り口に立って夜の演奏会に参加し、近隣の生き物を楽しませつつ、周囲のアリとキリギリスをけん制した。
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