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「やるじゃないか、次から次へと曲を繰り出す天才演奏家!」
『君の低音こそアジがある。手を抜くつもりはない!』
「はっは~! 言ったな!」
お互いに演奏を繰り返していると別の音色も聞こえて来た。カエル岩のキリギリスだ。
キリギリスの中での評判は今一つだが、アリにとって最も聞きやすい演奏をする男だ。本人もスポンサーのための演奏家だと豪語しているし、このスタイルを変えるつもりも無いらしい。
「カエル岩の!」
「よー、きんもくせいに楓の葉。お前らも無事に冬を越せたんだな!」
『お陰様で』
カエル岩は僕の身体を見て言った。
「おお、タンポポの綿毛か。こいつに守られてたのなら寝心地は最高だったろう?」
『ああ、アリたちには感謝している』
「うちの福利厚生も凄かったぜ。俺専用の食糧庫が用意されてたからな」
カエル岩のキリギリスは自慢げに笑うと、草の中へと身を隠した。彼専用の食糧庫ということは、中身はドックフードの破片がぎっしりと詰まっていたのだろうか。いや、トンボに目がないと言っていたから、そっちかもしれない。
軽い世間話が終わると、僕らは自慢の演奏を続けた。この辺りに動く金属が通りかかることはなく、僕らの羽音だけが静かに世闇に溶け込んでいく。
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