いざ、カスガの岩へ!

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 どれほど演奏しただろうか。きんもくせいのキリギリスは言った。 「そういえば、湖のキリギリスはどこに行った?」  カエル岩のキリギリスと目を合わせると首をかしげた。心当たりはないようだ。 「見かけねえな…お前、アイツの羽音…聞いたか?」 『いいや』  湖のキリギリスは、僕らの中で一番演奏力のあるキリギリスだ。飽くなき向上心を持ち、その演奏を聞いた女性は誰しもが魅了され、僕らでさえ嫉妬を通り越して、ため息すらついてしまう。 「アイツのことだから、もっとレベルの高い勉強会に行ったのかね?」  きんもくせいのキリギリスが自嘲気味に言うと、カエル岩のキリギリスが羽根を止めた。 「俺たちにとっちゃ、このカスガが全てだ。他の勉強会に行っても意味はないと思うぜ」  その一言に、きんもくせいのキリギリスも演奏をやめて反論した。 「それは言い過ぎだろう。いろいろな音楽に触れてこそ最先端の演奏家だ」 「まあ、理想はそうだけどよ。人間はもちろん、犬、猫、鳥、ネズミ、蜘蛛、カマキリ…道中にはこんな連中が闊歩してるんだ。危険を冒すほどの見返りがあるとも思えねえ」 「…まあ、一理ある…か」  きんもくせいのキリギリスが演奏を再開した時、別の音色も聞こえて来た。アジサイのキリギリスだ。     
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