第1話 異世界生活

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第1話 異世界生活

 それはただ単に出来心だった。  近くにある神社には昔から言い伝えがあり、そこにお参りしたら最後、この世界には戻ってこないという言い伝えがあったのだ。そして俺は今日その神社へと足を踏み入れ、今現在このような状況となっている。  ジジィは再び椅子に座り、俺に言った。 「そう言えば言い忘れておったが、お主はこれから異世界へ転生することになる」   「異世界へ転生ねー。うんうん、って今なんて言った!?」 「だから転生じゃよ。て・ん・せ・い」 「お・も・て・な・しみたいな言い方されても困るんですけど!?」 「ふぉっふぉっふぉっ」  長時間柱に縛られることがどれだけ辛いのかをあの人は知らないらしい。しかも恥ずかしいことに何故か裸だ。このジジイは多くの人をこんな目に遭わせてきたのだろうか。 「では話を続けるが、そこでのお主の役目はズバリ!エンペラーの討伐じゃ!」 「エンペラーの討伐?」 「そうじゃ。まぁせいぜい頑張るのじゃぞ。ちゃんといい所に降り立たせてやるからのぉ」 「え!?ちょっと!嘘だろー!」 その瞬間床が青く輝き、俺は気を失った。   ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※  ここはどこなのだろう。あぁこの感覚は外だ。今まで家に引きこもってはゲームをしてを繰り返してたばかりだったから外に出たということはすぐに分かる。 「……か。……ですか。大丈夫ですか!?」 「んっ!眩しっ!」  こんなの何年ぶりだろうか。日の光を浴びて芝生に横たわり目の前に美女が1人。 「ん?美女がひとりっ!?」 「いたっ!」  突然の出来事に驚き急いで立ち上がったもんだから心配そうに顔を覗き込んでいた美女と頭がぶつかってしまった。 「す、すみません!突然だったのでびっくりしてしまって」 「えぇ、大丈夫よ。こちらも少しビックリさせてしまったようね。ごめんなさい」 「こっちは大丈夫です!」 「かなり長く気を失っていたから心配だったけど、元気そうね!」  この人の笑顔はなんて綺麗なのだろう――つい引き込まれそうになる笑顔。と言っても元引きこもりだったので、関わった女子は少なかったのだが。  すると美女は汚いものを見るかのように俺の服へと視線を移した  「――それはそうと、あなた、随分と服が汚れているわよ。」  その時までは気にしてはいなかったが、自分の服装は袖口が適当に切れた白の半袖と茶色の半ズボン。そして茶色の半ズボンでも目立つくらい全身に泥がついていた。どうやら転生してきた際に結構なスピードで落ちてきたらしい。 「なんだよあいつ、いい所に降り立たせるとか言ってたくせに!」 「あいつって誰のことですか?」 「あぁ、いや、なんでもないーーそれより、どうしようかなこの服。住む家もないし、金もないし最悪じゃないかよ」 「もしよかったら私の家に来ますか?これから空模様が怪しくなる予報だからこのままいても危ないし」  その言葉を聞いてこれはいい機会だととっさに思い座り方を正座に正した。 「いいんですか!?」 「えぇ、いいわよ!」  俺には住む家もないし金もないが、美女を引き当てるという幸運だけは持って転生してきたようだ。まぁこうして俺の異世界生活は幕を開けた。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 「それにしても、これからどうすれば生活していけるのかを考えなくちゃいけないなぁ。」  カナデは金髪美女の言葉に甘えて、ゆっくりとお風呂に浸かっていた。  っていうかなんで俺は美女のお言葉に甘えてここまで来てしまったんだ――せっかくなら泊まりたいと思った俺がバカだった――というか女子と泊まるとか16の童貞にはキツすぎるっ! 「ここに代わりの服置いておきますねー!」 「えっ!あ、ありがとうございます!」  それにしてもこのお風呂はなんて居心地がいいのだろう。まさかここに来て檜風呂を経験するなんて思わなかった。この世界に檜があるか分からないが ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※  この家はそんなに広いわけでもなく、村にあるごく一般的な丸太小屋みたいな感じであった。内装はリビングにお風呂と寝室がドアを隔てて繋がっている。  お風呂に入らせてもらい服も貸してくれた美女に礼を言うべく、バスタオルを肩に掛けながらリビングへと向かった。  そこには机の前にある椅子に座りながら本を読んでいる金髪ロングの美女がいた――そういえば名前も聞いていなかったな。 「今日はいろいろとありがとうございました。えと、お名前まだ聞いてませんでしたよね?」  そう言うと美女は本に集中していて存在に気づいていなかったのか本を閉じて少し驚いた目でこっちを見てきた。 「いつの間にお風呂出てきてたのね!少し驚いてしまってごめんなさい。」  そう言うと美女は椅子から立ち上がって俺の目の前で話し始めた。 「私の名前はスピロティア・ユリ。ユリって呼んでください!よろしくお願いします。」 「俺の名前はキタガミ・カナデ。カナデって呼んでください!あと、お互い敬語やめたいんだけどいいかな?敬語が苦手なもので」 「もう敬語やめてるじゃないのよ」 「そうだったね」  2人の笑い声が部屋中に響く。ユリの笑顔は本当にこの世で1番綺麗な海よりも綺麗なんじゃないかと思う。 「そういえばカナデの職業って何をしているの?」 「職業……ですか?」  まずい!ここはなにか適当に言わなければいけないやつだ!多分エンペラーを倒しに転生してきましたとかを言うと、いや絶対に電撃が走るだの物理的な痛みかそれがなくともバカじゃないのこいつって思われるに違いない!   ここは賭けだ、騎士があるかわからないが言ってみるしかない!それに転生といえばこれがスタンダードだ 「い、一応騎士をしてます」   やべぇ言っちゃったよ!どうしよう、これで騎士という職業はないとか言われたら――もうおしまいだ。 「ふーん、騎士やってるんだー。」 「ひぃぃ!ってえっ、そ、そうなんですよ!」 「じゃあ出身地とかってどこなの?それに剣とかも持ってないようだし……」  まずいよ!これどうすればいいんだ、助けてくれジジィ! 「出身地が、その、分からないんだよね。いや!なんというかその記憶喪失?みたいな感じになってて!」 「えっ!?それは大変!じゃあ職業と名前しか覚えてないんだ!」 「そ、そうなんだよ!」  なんとか通せたな危ない危ない。 「まぁそうなったら汗だくにもなるよね。相当焦るだろうし」 「そ、そうですね。あはは」  ――やべぇ、焦りすぎて汗が出ていることすら忘れてたな。 「じゃあしばらくはここに居なよ!村長に頼んでここに住める許可をもらいに行こう!」  カナデは思わぬ言葉にビックリして再び出た汗をバスタオルで拭いながら言った。 「いやー、でもずっとお世話になる訳にも」 「私は別に大丈夫よ。たくさんの男の人泊め てきたし」 「え……」 「さぁ行こう!カナデくん!」 「え、えぇー!」  ユリはカナデの手を引っ張りながら家を飛び出して行った。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※   勢いそのままで村長の家まで来てしまったが……。どうやら俺の特殊能力というのは変なジジィに取り憑かれる能力を持ってきたらしい。そして今現在、また俺の顔を舐めまわすように見られているわけなのたが。 「ほほう、ユリちゅわんはしゅばらしい若者を連れてきたものじゃ」  これは偏見かもしれないが、ジジィはみんな同じ顔に見える。その理由はてんこの目の前にいる杖をついたジジィと天国らしき所にいたジジィと瓜二つだからだ。 「それにじゃ、こやつの目は今にも死にそうな目をしている・・・・・。これはただものでは無いぞ!ゴホッゴホッ」 「いや、お前の方が死にそうだな!んでおじさん、村に住むためにはどうしたらいいんだ?」  ジジィと称している村長は長い白ひげを触りながらこういった。 「そうじゃのぅ、お主が騎士ならばワシと戦って勝てば村に入れるのじゃが、ゴホッゴホッ」 「えっ、おじさん戦えるの!?」 「じゃがお主は剣を持っておらんようじゃのぅ。」  村長は困った顔から何かと思いついたかのように目を大きくさせ、自分の家にあるソファの下から剣らしきものを持ってきた。鞘は何かの皮であろうか――茶色の鞘に入ったいかにも兵士が持ちそうな剣を見せてきた。 「これを使うがいい、わしが初めて兵士となった際に貰った剣じゃ!」 「おおお!ありがたくいただきます!」  剣を貰った瞬間に少し落としそうになった。何せ、ずっと引きこもっていたわけなのだから筋力もあまりない。 「これ、俺が使えるのかな?」 「大丈夫よ!騎士なんでしょ!何とかなるよ」  隣にいるユリがそう答える。 「そうだな!何とかなるよな!」  村長の家でみんなの笑いが響く。今思うとこの村の近くにリスポーンしてきて良かったと思う。 「では、村にある中央の開けたところで試練を行おうではないか!」  村長は窓から村の中央を指さして言った。きっとあそこは試練を受けるために作られたのだろう。  ――よっしゃ、やってやるぜ。ここから俺の異世界生活の1歩が幕を開ける!  俺が決意を決めたその時、甲高い声が頭の中を横切った。 「な、なんだ!?」 「きっと帝国軍の者共じゃ!おのれ!」  村長はそう言うと壁に掛けてあった斧を取り出し外に出た。 「私達もこうしちゃいられないわ!今すぐ行きましょう!」  ――おぉ、イベント発生!これを機に自分の隠れた特殊能力とかが出ちゃったりして、あなたは神に選ばれし戦士だ!とか言われる流れじゃん 「よっしゃ!行くぞユリ!」 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※  「って言って来たは良かったものを、敵の人数が多過ぎないか」  300人くらいが住める程度のこの小さな村に、帝国軍はざっと30人くらいで攻めてきていたのだ。しかも鋼鉄な鎧をまとってだ。  対してこちら側は帝国軍に対抗出来る者は10人くらいしか居ない。ここは1つ俺が見せてやらねば! 「おい、そこのお前!俺とタイマンしろ!」 「なんだね小僧、お前もこのザクロス様に殺して欲しいのか?」 「やれるもんならやってみろ!どうせお前なんてな俺が本気を出せばっ……」 「ハッハッハッハ!面白いやつめ。この状況を見てそんなことが思えるとはな」  この状況?何を言っているんだこいつ。ゲームだったら最初の村で最悪な事態になることなんて·····ッ!?  ――燃え盛る炎、沸き上がる悲鳴、無数に転がった死体、そして剣から下垂れる血。  そ、そんなことがありえるのか。きっと夢だ、こんなこと……。 「――危ない!」  大きく鳴り響く金属音、目の前に現れる金髪美女。想像では助ける立場だったのに、なぜだか足が動かない――重い、怖い、苦しい。 「……カナデ……カナデ……カナデ!」  いつからここに座っていたのだろうか、俺はこの世界で味方に苦労させることしかできないのか。 「大丈夫?しっかりして!」 「ユリ·····さっきの敵は?」 「無事追い払ったよ」 「そうか、それなら良か……っ」 「カナデ?……カナデッ……」  俺はこの世界で何を見つけるために来たのだろう。何を守るために来たのだろう。この何も守れない元引きこもりの俺が。  意識が遠のいていく、このまま死んでしまいたい。こんな地獄を見るならばもう――何もいらない。      
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